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2016年12月18日 (日)

第96回直木賞『カディスの赤い星』『遠いアメリカ』の単行本部数

第96回(昭和61年/1986年・下半期)直木賞

受賞作●逢坂剛『カディスの赤い星』(講談社刊)
初版7,000部→12万(受賞約1年で)
受賞作●常盤新平『遠いアメリカ』(講談社刊)
11万(受賞約1年で)

 のちに直木賞をとることになる単行本は、はじめ初版でどのくらい刷られたものだったのか。

 これをすべて調べて並べるだけでも、すごく面白いリストができるはずです。でも、ほとんど実現は不可能に近いので、ちょっとやる気が起きません。

 穴だらけで何の参考にもなりゃしないですけど、昭和60年代からの、ここ30年ぐらいの数字であれば、初版部数が何となくわかっている作品もあります。

昭和60年/1985年 9月刊 森田誠吾『魚河岸ものがたり』 7,000部
昭和63年/1988年11月刊 藤堂志津子『熟れてゆく夏』 8,000部
平成 4年/1992年 5月刊 伊集院静『受け月』 1万5,000部
平成 7年/1995年 5月刊 赤瀬川隼『白球残映』 7,000部
平成11年/1999年11月刊 なかにし礼『長崎ぶらぶら節』 8,000部
平成19年/2007年 3月刊 松井今朝子『吉原手引草』 8,000部
平成21年/2009年 7月刊 佐々木譲『廃墟に乞う』 2万0,000部
平成22年/2010年11月刊 池井戸潤『下町ロケット』 1万8,000部
平成26年/2014年 9月刊 姫野カオルコ『昭和の犬』 6,000部
平成28年/2016年 3月刊 荻原浩『海の見える理髪店』 1万0,000部

 出版業界全体では、初版部数って徐々に少なくなっている、とよく聞きます。だけど、これだけじゃその傾向は見えません。ほんと何の参考にもなりませんでした、すみません。

 それで今日は、ちょうど30年前の第96回(昭和61年/1986年・下半期)のことですが、急激に勢いをもちはじめた冒険小説界から、はじめて直木賞をとった逢坂剛さんが、当時の出版部数の状況を、こんなふうに回想してくれています。

「版元の講談社がその(引用者注:昭和56年/1981年より)少し前に当時無名の作家、船戸与一の『非合法員』をハードカバーで出し、みごとに失敗して懲りたいきさつから、『裏切りの日日』はお手軽なソフトカバーで、出版されることになった。初版部数も、今のような出版不況とは無縁の時代だったのに、わずか六千部にとどまった。そしてみごとに、初版で絶版という結果に終わる。」(平成24年/2012年2月・理想社刊、逢坂剛・著『小説家・逢坂剛』所収「私がデビューしたころ」より ―初出『ミステリーズ!』2号[平成15年/2003年])

 どうも逢坂さんの口ぶりでは、80年代での初版6,000部は少なかった、と言っているようです。だけど、意欲作とはいえ新人の本だから、当時でもそのぐらいが妥当じゃなかったんじゃないでしょうか。

 じっさい、出版不況とは無縁の時代ではあったでしょうが、そのわりに直木賞の受賞作の売り上げを見ると、いまとあんまり変わりません。

 『裏切りの日日』から5年後の昭和61年/1986年、『百舌の叫ぶ夜』ではじめて増刷を経験し、それから間もなく刊行された『カディスの赤い星』は、〈いまノッている作家〉×〈でもむちゃくちゃ分厚くて定価も高い〉という判断があったんでしょう、『裏切りの日日』よりも多少上積みされた程度で、初版は7,000部だったと言います。

 ちなみに同じ時代の候補作家、と言っていい森田誠吾さんの場合、『曲亭馬琴遺稿』(昭和56年/1981年3月)と『魚河岸ものがたり』(昭和60年/1985年9月)がともに、初版7,000部だったらしいです。いやいや、そんな、はなから売れそうもない地味な本と冒険小説をいっしょにするな! という気もしますが、新人の小説としては、驚くほど少ない部数でもなかったんでしょう。

 『カディス~』は、昭和61年/1986年7月に発売されたあと、なかなか好調な動きを見せたらしく、翌年1月の直木賞選考会までに、四刷までは行ったと推測されます。それで受賞が決まって一気に増刷、1月末~2月上旬にかけて全国の書店に一斉に配本、となったうえに、さらには、推理作家協会賞だの冒険小説協会大賞だのも受賞してしまう追い打ちがかかりました。

 『出版月報』によれば、直木賞から約1か月で11万部程度まで上昇。ところが、その後はパッタリ勢いがなくなったそうです。

 『出版指標 年報1988』(昭和63年/1988年3月)では、「文学賞受賞作の売れ行きは低調」という小見出しのもとで、『カディス~』12万部と紹介されています。

 出版不況と縁があろうがなかろうが、直木賞パワーっつうのは、どうも爆発力が稀薄なようです。

           ○

 はなから売れそうもない地味な本と、いっしょにするのはどうかと思いますが、『カディス~』と同時に直木賞をとった常盤新平さんの『遠いアメリカ』も無視するわけにはいきません。そっちのことも少しだけ付け足します。

 ただ、『遠いアメリカ』の初版がどのくらいだったのかは、いまちょっとわかりません。

 『遠い~』より『カディス~』のほうが、(直木賞を受賞する前までで)売れていたはずだ、というのは勝手な思い込みかもしれませんけど、少なくとも重版の回数で、『カディス~』が先行していたことはたしかです。たしかどころか、『遠い~』のほうは、受賞した段階でまだ初版だったと思われます。

 それが受賞後に大増刷、という点はもちろん両者とも同じで、はなから売れそうもない地味な本(……って、くどいな)なのに、『遠い~』もまた、受賞1か月程度で10万部~11万部。売れ行きは、ともに仲良くほとんど似たように推移し、そしてすぐに勢いがなくなったのも、やっぱり同じ。

 1年後の『出版指標 年報1988』で『遠い~』のほうは、11万部と記録されました。

 前週ふれた半年後の受賞作、白石一郎さんの『海狼伝』と、まあだいたい肩を並べています。

 どいつもこいつも、10万部を超えたあたりで「受賞効果」が薄れる、というのが直木賞スタンダードなのかもしれません、このあたりを見るかぎり。

 そのスタンダードは30年たったいまも、しぶとく続いていて、なかなか崩れていないんですが、少なくとも、80余年の歴史の最初からそうだったわけじゃありません。じゃあ、いつから10万部がスタンダード化したのか。昭和60年代よりもう少しさかのぼる必要がありそうです。

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コメント

天童荒太『悼む人』の初版が10万部だったと思う。
出典はたぶん『創』の2010年2月号(メモしたのに紛失してしまったので違っているかも)
初版でそんなに出るのか、直木賞は既定路線だったのかななんてちょっと思った記憶がある。
でも初版で10万部って多すぎるからひょっとしたら記憶違いかも。

投稿: | 2017年1月10日 (火) 00時30分

コメントくださった方、ありがとうございます。

たしかに初版で10万部であれば、相当なもんですね。

『創』、調べてみます。

投稿: P.L.B. | 2017年1月10日 (火) 21時12分

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