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2016年5月22日 (日)

又吉直樹は言った、「時代時代で事件性のある作品が話題になってきた」。(平成28年/2016年1月)

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(←書影は平成27年/2015年3月・文藝春秋刊 又吉直樹・著『火花』)


 日本文学振興会、とくに直木賞の予選担当グループの人たちに、ぜひ言いたい。もうじき1年が経ちますけど、いまだにワタクシは怒りが収まりません。何という大ポカをやらかしてしまったのか。又吉直樹が芥川賞ですって? ちがう。全然ちがいますよ。

 又吉さんの『火花』。どう考えたって、直木賞の候補になるべくして生まれたような小説じゃないですか。これを、もはやいくら燃料をつぎ込んでも消えていくだけの残りカス、文芸誌護送船団のなれの果てみたいな賞に奪われて、ニコニコ笑っている場合じゃないでしょ直木賞関係者は。猛省してほしいです。

 すでに他分野で大活躍しながら、エッセイも数多く書いて著書もあり、読み物誌(『別冊文春』)に小説も発表したりして、書き手として脂の乗り始めた人である。というのに加えて、なにしろ初出が『文學界』。読んでみりゃ、ガチガチの意味不明な純文芸、みたいな匂いはまったくせず、さりとて、エンタメに振りきった読み物でもない。……明らかに、直木賞で取り上げるのが自然な流れでしょうに。

 まったくもう。こういう千載一遇のチャンスですら、平気で逃してしまう直木賞の、うっかり屋さんぶりには、心底あきれ果ててしまいます。あれが「直木賞受賞作」だったら、200万部も行かなかったかもしれませんけど(いや、それ以前に、受賞はできなかったかもしれませんけど)、『火花』=直木賞候補、のほうが、のちのちまで盛り上がる要素は多かったでしょうし、よっぽど活性化につながったはずなのに。ああ、かえすがえすも残念です。

 とはいえ、又吉さんには、これから期待するところがあります。これまでもさんざん、出版界の活性化(という名を借りた金儲け)に利用されてきた、「過去の小説の案内役」としての得難い才が、よけいに光輝くと思うからです。

 そもそも、芥川賞をとる前、「本好き又吉直樹」の最大の功績は、西加奈子のことをやたらと推しに推したことだ。とよく言われますが(……言われているのか?)、あそこまで西作品にハマる理由が個人的にはさっぱりわからないながらも、とにかくその褒めっぷりは尋常じゃありません。

 『第2図書係補佐』(平成23年/2011年11月・幻冬舎/幻冬舎よしもと文庫)でも『東京百景』(平成25年/2013年9月・ヨシモトブックス刊)でも、西加奈子エピソードがわんわん出てくるし、又吉さんのホームグラウンド(なんすかね)『ダ・ヴィンチ』でも、読んでいるこちらがヒくぐらいに、西さんの作品を激賞しています。

「西加奈子さん。あの人は、笑いのセンスが天才的やと思う。最初は『あおい』から入って『さくら』『通天閣』『しずく』、みんな、面白かった。(引用者中略)西さんの小説を読んでると“これ、このまま舞台でいけるな”って。それはちょっとほかにおらんというか。“ここから笑わせますよ”みたいなこれみよがしなところがなくて、笑いと物語が乖離してないところも凄い。」(『ダ・ヴィンチ』平成23年/2011年11月号「「僕はこんな本を読んできた」芸人・又吉直樹(ピース)」より ―取材・文:瀧晴巳)

 ずっと以前から変わらぬテンションでベタ褒めされていて、ヒいちゃうこっちが恥ずかしいと自己嫌悪に陥るぐらいです。その後、西さんが直木賞をとったときには、西作品の長年のファン・又吉、あるいは芸人又吉と仲良しの西、ということで直木賞記事もにぎやかにしてくれた、というのは、いまさら言うまでもありません。

「西さんの作品を読み続けることができるだけで、ぼくの人生は幸福だと思わせてくれる、そんな作家です」(『女性セブン』平成27年/2015年2月5日号「西加奈子さんへ ピース又吉絶賛祝辞「笑いも天才!」」より)

 といったコメントを寄せるだけじゃなく、直木賞発表号の『オール讀物』(平成27年/2015年3月号)に、見開き2ページの特別寄稿「無敵の西さん」を顔写真つきで書いてしまうという、そもそも何でここで又吉さんが特別寄稿しているのか、と異例中の異例な取り上げられ方だったんですが、「テレビでよく見るおなじみの人」+「恐るべき本好き」の威力は、直木賞だって軽々となびくほどの存在ではあったわけです。

 とにかく、硬であれ軟であれ、ツボにはまった小説は「面白い」とはっきり言ってくれるこの姿勢。若干「文芸」に偏りながら、でも気持ちわるい文芸畑方面だけに目を向けるわけじゃなく、どんなジャンルの本もフラットに語ってくれる。ほんと、又吉さんのおすすめは、有難いし、勉強にもなります。文芸誌にチロッと小説書いて「純文芸の救世主」扱いされるより、小説のよさを語り、本をすすめるほうが、又吉さんのよさが光るはずだわ。と、みんなから言われるのも当然だよなと思います。

           ○

 たとえ過去の小説であっても、又吉フィルターを通せば、また魅力的な本に(魅力的な本っぽく)なってしまう。というのは、まじで素晴らしいです。

 藤本義一さんに「鬼の詩」という作品があります。当時藤本さんがバンバン書いていた数多くの小説のうちのチッポケな一作でしかないんですが、でも直木賞をとったというだけで、何度も書店棚から消えながら復活し、他の藤本作品とはちがって、いまでも生き残っている作品です。自分も芸人小説を書いたので、ってことで又吉さんが紹介してくれていたりします。

「芸人の話である『火花』という小説を書き終えたあと、藤本義一さんの短編で同じ分野の芸人小説「鬼の詩」(第71回直木賞受賞作)を読んだんです。おもろかった。

(引用者中略)

馬糞のネタも、藤本さん自身はたぶんおもろいと思って書いてない。それでにわか人気が出た行為を描写しているだけ。売れてない芸人のおもろくない日常を徹底して書くことが物語をおもしろくするんです。」(『ダ・ヴィンチ』平成27年/2015年5月号 又吉直樹「第2図書係補佐 外部活動 第32回」より)

 とにかく自分の経験や実感に引き寄せて、本を紹介する。紹介できてしまうのが、やはり又吉さんの強みです。はっきり言いまして、この調子で直木賞の全受賞作のおすすめレビューとか、書いてほしいです。頼みます。

 この又吉おすすめスタイル、を褒めちぎっているのが西加奈子さんで(また西さんかよ。とかツッコまないでください)、今年の『オール讀物』1月号は、二人の対談を、売りの企画として仕込んでくれました。さすがに「滝口悠生」とか「本谷有希子」が『オール讀物』の目次を飾っていたら違和感ありますけど(……あんま、ないか)、読み物企画にしっくり来てしまうのは、やはり芸能人として実績を積んできた又吉さんの華のおかげ、なんでしょう。

 そこでは、お得意の、「自分のテリトリーのことを比喩に出して語る」というスタイルで、劇場のハナシを例に挙げながら、これまでの「本をすすめる」やり方について説明しています。

又吉 僕は本好きだから、文庫の後ろに載っている解説や評伝を読んだりしますが、それは百人しか入らない小劇場に集まったコアファンを満足させるようなもので、僕はそれが好きで、そこにわざわざ行く客なんですよ。でも、その百人だけでは出版業界は立ちゆかなくなってしまいます。三千人入る劇場でやろうとする際、百人に向けたものと同じ内容ではお客さんは絶対に来ないわけです。では、どうやって集客するかといえば、まずは普通の話をして信頼関係を結んだ上で、「こういう本がありますよ」と紹介する方法しか僕には思いつかないんです。」(『オール讀物』平成28年/2016年1月号 西加奈子、又吉直樹「読書はもっと楽しくなる」より)

 いやいや、そりゃ、普通の話で集客できるのは、あなたがすでに芸人で人前に出る立場だからじゃないんですか。などというヤッかみまじりの反論を予想したんでしょう(か)、又吉さんはここで、もうひとつの集客策を、話題にしてくれているのです。

 文学賞のことです。

(引用者注:前引用につづき)もしくは、何かしらの事件を起こすか。

西 事件ですか?

又吉 石原慎太郎さんの『太陽の季節』や庄司薫さんの『赤頭巾ちゃん気をつけて』、村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』といった作品の鮮烈さや、綿矢りささんの芥川賞史上最年少受賞など、何かしら事件性がある時に、話題になるじゃないですか。(引用者中略)「時代時代で事件を起こしてきたものが話題になってきた」と言いましたが、芸人の僕が書いた『火花』は質は置いといたとしても、色々と取り上げていただいたことによって、ある意味、そういう作品になったのかもしれません。」(同)

 全部、芥川賞のことじゃないか! 直木賞の受賞ぐらいのものは、事件でも何でもないと言いたいのか!(ってのは難クセ)

 ……いや。これまでの直木賞を見ていればたしかに、直木賞がいまの出版業界をどうにかできるほどのパワーを発揮できる、とはとうてい思えない。という又吉さんの(?)感覚は正しいと思います。

 となれば、もう未来に期待するしかありません。ともかく文学賞をとったんですから、又吉さんには、ぞくぞくと多くの読者が楽しんで読める小説を書いていただきたい。そして、いずれは直木賞の選考委員に就任してもらって、小説に対して温かいその批評眼を存分に発揮し、そこで何かしらの事件性を生み出す人になってほしいです。直木賞の場で。

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