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2016年4月17日 (日)

太田光は言った、「ハクをつけたいので、本屋大賞か直木賞を狙いたい」。(平成24年/2012年1月)

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(←書影は平成24年/2012年1月・楓書店刊、ダイヤモンド社発売 太田光・著『文明の子』)


 直木賞をとった人たちより、芸能人のほうが圧倒的に有名です。だいたいは。たくさんの人に注目される、という面で、直木賞は(一部の)芸能人にまったくかないません。

 そういった状況のなかで、メディアを通じて、強烈に、しかも繰り返し繰り返し「直木賞」のことに言及し、「誰かに触れてもらえることに最大の価値がある」直木賞の存在意義とその維持に、最も貢献した芸能人はだれか。とくに2000年代から2010年代の前半まででいえば、これはもう断然に、爆笑問題の太田光さんだと思います。

 芸能界のことにそんなに詳しくないワタクシですら、太田さんがいろんなところで直木賞をネタにしている、ってことを知っているぐらいですので、一般的には、直木賞のことを語らせたら太田光、太田光といえば直木賞、といった印象が、かなり浸透している……んですよね? まあ一般のことはさておき、ワタクシ自身は、「誰かに語られているときの直木賞」のファンです。なので、もちろん、直木賞のことを語る太田さんが好きです。

 「直木賞に関する太田語録」は数多くあるんですが、だいたいある一つの考え方に集約しています。「文壇の権威である」っていう価値評価です。

 おそらく太田さんは、文学史・小説史に詳しい方だと思います。直木賞に対しても、数多くの斬り込み方をもっているはずです。そのなかで、この「権威」の側面だけをチョイスし、それを前提にして冗談・洒落めいた発言をする。終始一貫してその姿勢にブレがありません。

 イメージってやつは、ほんと馬鹿にできなくて、べつに直木賞って他の賞に比べて権威をもつほどのものじゃない、とワタクシは思うんですけど、一般には、同じ組織がやっているもうひとつの賞と並んで一番の権威だ、と言われちゃっています。しかたありません。その一般的な印象から逸脱せず、常に直木賞=権威である、という土台のうえに立って、直木賞について言及するし、ときにボケの道具に使って笑いをとる。

 一度や二度ならわかります。この姿勢をずーっと守り通す、っつうのはさすがにつらいと思います。それでも、いまなお、太田さんの直木賞ネタの基本は、そこに軸が置かれています。

 まだ自分で小説を発売する以前から、自分よりも(波及力では格下の)「直木賞」のことを、いろいろと表舞台に引き出してくれました。その代表的なひとつが、『ダ・ヴィンチ』平成19年/2007年5月号の特集記事です。

 日本テレビで放送されていた「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中」を特集したもので、「番組徹底大研究」「収録現場を密着取材」「太田光ロングインタビュー」などなど、このあたりは、テレビ雑誌で取り上げるほうがふさわしい内容なんですが、ダ・ヴィンチ誌上でマニフェストを発表、読者および著名人による賛否の意見を紹介し、その票数による採決までを記事にした部分は、『ダ・ヴィンチ』ならではと言いますか、思いっきり、直木賞ファンに楽しみを与えてくれる4ページになっています。

「この度は、混迷する日本出版界を明るい未来に導くため、太田総理が提出したマニフェストについて、作家・書評家・書店員の皆さまをゲストに迎えて誌上討論を行いたいと思います。それでは審議をはじめます。内閣総理大臣・太田光くん!

私の今回のマニフェストはこちらです!

「芥川賞・直木賞を廃止!

国民投票で選ぶ文学賞

“直木川賞”を新設します!!」」(『ダ・ヴィンチ』平成19年/2007年5月号より)

 これについて、ゲストとしてコメントと賛否の投票を寄せているのは7人。阿刀田高、島田雅彦、阿川佐和子、大森望、豊崎由美、永江朗、上村祐子の面々です。

 企画そのものは、誰がどのくらい賛成しようが反対しようが、現実は何も変わらない類いのもので、文学賞を空想上でもてあそんで楽しむ、思考のお遊びです(もちろん、文学賞をそうやって楽しむことには大賛成なので、素晴らしい企画だと思います)。おおむね、まともな意見が飛び交わされていて、読者投票も含めた結果、マニフェストへの賛成131人、反対166人で、否決。ということになっています。ワタクシ個人的には、文学賞を2つ減らして1つ増やす、つまり結果的に賞を減らしてしまうような提案には、反対です。文学賞の数が減れば、それだけ楽しみが減っちゃいますからね。

 それはそれとして、このマニフェストには、やはり大きな欠点があります。「直木賞・芥川賞を廃止する」ということと、「国民投票で選ぶ文学賞を創設する」という、二つのことを(なぜか)一緒にしてしまったことです。……とマジレスしてもしょうがないので、そこは深くツッコみませんけど、でもこの発想が、太田さんの「直木賞ネタ」の基本、なんだと思います。

「なぜこのような提案をしたかというと、文学というのは完全に大衆のものだと思っているからなんです。芥川賞と直木賞って、とくに芥川賞なんて新人賞的な意味合いもあるのに、すごく権威があるじゃないですか。そういう、いちばんの権威は国民が選ぶほうがいい。」(同)

 要するに、「直木賞・芥川賞」セットから、新設「直木川賞」への置き換えは、権威ある賞をどうするか、ということに主眼に置かれています。

 出発点には明らかに、直木賞のことを、いま現実に権威をもっている賞としてとらえる、一般的に共有された前提があるわけですね。ただ、これに反対意見を寄せている阿刀田、島田、阿川、豊崎、永江の各氏や、読者からの反対コメントなどには、「権威」以外に直木賞(やもうひとつの賞)がもっているさまざまな性質が挙げられていて、それで「とくに廃止すべきだとは思わない」と言われています。そりゃそうです。直木賞には「権威」しかないわけじゃありません。否決も当然でしょう。

 と、けっきょくマジレスしちゃっていますが、やっぱり直木賞のこと考えるのって、楽しいんですよ。堂々と、メディアを使って直木賞の存在意義や立ち位置にまで食い込んで話題を投げかける、太田さんの誰にもまさる功績だと思います。

           ○

 とにかく文学作品が大好きで、その種の発言を無数に繰り出してきた方なので、「本好き」芸人の評価を獲得するのも当然ですし、納得です。そのうえ、エッセイの仕事も山ほど抱えて、「文章も書ける」芸人として広く知れ渡るなか、

「最近、俺に向いているのは、小説じゃないかと思い始めてるんですよ」

「いや、もちろん、小説にだって、小説なりの難しさがあると思うんです。でもね、なんでだろ? 確たる根拠はないんだけど、なんとなくできそうな気がするんです」(平成13年/2001年7月・小学館/小学館文庫 太田光・著『爆笑問題 太田光自伝』所収「文庫版特別収録 35歳 漫才とコント。映画と小説。」より ―インタビュー・構成:唐澤和也)

 とも言ったりするもんだから、いつか太田さん、小説を書きそうだ、という期待が厭が応にも上がります。

 きっとスゴい小説を書くんだろう、そりゃいつも、あれだけのことを言っているんだから。……などと、ハードルが上がりに上がった状況で、平成22年/2010年10月、初の小説集『マボロシの鳥』(新潮社刊)を出しました。あまりに最近のハナシすぎて、ここで取り上げても新鮮味はないんですが、しっかり売り上げを叩き出したのは、文芸ものといえば太田光、っていう土壌を耕してきた結果だと思います。

 しかし、太田さんの場合、それだけじゃ済まされません。劇団ひとり、品川ヒロシなど、芸人の書いた小説が出たときには、しばしば「直木賞」をネタにして語ってきた、といった経緯があります。そりゃ、自分で小説を出したら直木賞のことを言わなきゃいけないよね、ぐらいの状況になってしまっており、ほとんど、みなさんの期待にお応えして、という感じで、みごとに直木賞ネタで盛り上げてくれました。

「お笑いコンビ爆笑問題の太田光(45)が29日、都内で、自身初の小説「マボロシの鳥」(新潮社)刊行記者会見を行った。(引用者中略)太田は「今日は直木賞受賞会見と思って来ました」と笑い「最近(著書を出版する)若手芸人たちの新たな道を開拓することに焦りを感じた。のろのろしちゃいけないと思った」と打ち明けた。さらに「人のことを批評ばかりしてきたので、批評される立場になりたかった。村上春樹さんより早くノーベル文学賞を頂きたい」と話した。」(『日刊スポーツ』平成22年/2010年10月30日「爆問太田「ノーベル文学賞頂く」」より)

 「ノーベル文学賞」の件が記事タイトルになるくらいなので、賞のことなら、村上春樹とノーベル文学賞のことで十分にネタが成立しています。なのに、わざわざツカみで直木賞のことにも触れてくれるあたり、太田さん優しいよなあ。どうみても、この場面、触れてもらうほどの格が、直木賞にはないわけですから。

 直木賞はネタにしてもらえただけいいとして、作品内容からしても、山周賞あたりが、候補作に選べばよかったのに。と思いますけど、いくら何でもお手盛りだ何だと批判されるのを怖れたからか、とりあえずどの文学賞もこれをスルー。まあ、文学賞の候補にならないことは、ことさら特殊な事態でもありません。はっきりいえば、どうでもいいです。

 どうでもいいのに、「文学賞の候補にならなかったこと」を、小説2作目のときにきちんと出版会見に活かすところが、太田さんのいいところで、しかも今回は直木賞のことがメインネタとして扱われました。この方の、直木賞に対する貢献度は、ほんと特級レベルです。

「お笑いコンビ・爆笑問題の太田光(46)が21日、都内で自身2冊目の小説「文明の子」の刊行会見を行い、直木賞取りを宣言した。

(引用者中略)

「何の賞も取れなかったら、もう一回書いて断筆します。本屋大賞か直木賞を狙いたい」と自信。」(『スポーツ報知』平成24年/2012年1月22日「太田光が小説「文明の子」の刊行会見 直木賞取りを宣言」より)

 いや、著者本人は本屋大賞のことも言っているのに、ざっくり「直木賞取りを宣言」とまとめてしまう記者こそが、特級レベルの功績者なのか。とも思いますけど、「これまで100冊以上、本を出しているけど何の賞をもらっていない。この辺でハクつけたい」(『デイリースポーツ』平成24年/2012年1月22日)と発言するあたり、ハク、つまりは権威の象徴として直木賞を語る、太田さんの直木賞ネタは、ブレていません。

 次の3冊目、いつ出るのかわかりませんが、新しい小説が読める楽しみと同時に、太田さんがどのように直木賞のことを話題にしてくれるのか、そちらのほうもムチャクチャ期待しています。「断筆」なんて冗談ですよね、これからもずっと、直木賞のことをネタにする芸人でいつづけてほしいです。

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