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2015年11月 8日 (日)

小泉今日子は言われた、「この人の名前がついた文学賞があったら、芥川賞より魅力的」。(平成10年/1998年2月)

151108

(←書影は平成27年/2015年10月・中央公論新社刊 小泉今日子・著『小泉今日子書評集』)


 世の中には、すべてにおいて直木賞を凌駕している人がゴロゴロいます。小泉今日子さんもそのひとりです。っつうか、直木賞と比較すること自体、小泉さんに失礼だ、という説もあります。

 ネームバリュー、人気、話題性、包容力、攻撃性、本への愛情、向上心、自然体……何ひとつ、直木賞のほうが勝っている点がありません。世間には、直木賞受賞作と言われても全然トキメかないけど小泉さんが勧めている本なら読んでみようかな、と思う人のほうが、ケタちがいに多いでしょう。

 何しろ小泉さんには平成1年/1989年ごろ、吉本ばなな(よしもとばなな)さんをいち早く評価して、芥川賞との勝負で圧倒的な勝利をおさめた戦績があるぐらいです。直木賞などかなうはずがないことは、いまさら言うまでもありませんね。

 その小泉さんには、何冊もの本がありますが、たいがいがオシャレでアーティスティックで、ふんだんに写真が盛り込まれている。直木賞にしか興味がない偏屈(変態)オヤジからすると、もっと小泉さんの書く文章にどっぷりひたりたいのに、この写真のウザさが邪魔なんだよなー、と思っていたものでしたが、このたび刊行された『小泉今日子書評集』(平成27年/2015年10月・中央公論新社刊)は、活字のみの構成です。心地よかったです。

 新聞の書評(しかも、読売新聞)とくれば、一般読者界にほとんど効果を及ぼさないことで、よく知られています。しかし、なにしろ小泉さんのパワーは尋常じゃないらしいので、書評で取り上げられた本が、たちまち売れて売れて売れまくった、なんちゅうことも、しばしばあったことでしょう。

 とにかく、地味でクラい出版(とくに小説)界にとっては、これほどとてつもなく影響力のある芸能人がいれば、もうひれ伏すしかありません。太宰治、吉本ばなな、『モモ』、『ライ麦畑でつかまえて』、『ノルウェイの森』等々の売れ行き急上昇事件があった折には、

「アイドルの中でも読書家として有名な小泉今日子(24)。

(引用者中略)

書籍の取次店では、“需要喚起型水先案内人”という名目でなんとかキョンキョンを表彰したいらしい。」(『週刊文春』平成2年/1990年4月19日号「Tea Time 読書家 小泉今日子」より)

 などと、やたら持ち上げられそうになります(っていうか現に持ち上げられました)。

 みんなから注目を浴び、わっしょいわっしょいと祀り上げられる。そうなったときに、気負ったりふんぞり返ったりしないところが、直木賞(受賞した人たちじゃなくて、賞そのもの)とは違って小泉さんの尊敬されるゆえん、なんだと思います。読売新聞の村田雅幸記者も、言っています。

「「アイドルだった私は、『この程度やれば十分』と言われることが多く、悔しかったんです。本当はもっと頑張れるはずなのにって。だから今回は、村田さんがいいと言うまで、何度でも原稿を書き直します」。驚きました。同世代の私から見れば「あの小泉今日子が」と。偉ぶっても全くおかしくないのに、なんて謙虚で真摯な人なんだろうって。」(『小泉今日子書評集』所収「特別インタビュー 読書委員の十年間を振り返って」より)

 まあ、村田さんが直木賞を賞として尊敬していないかどうかは、知らないんですが、村田さんはまっとうな感覚の持ち主ですので、たぶん尊敬していないんじゃないかと思います。

 ともかく、小泉さんのことです。小説も漫画もそれ以外のジャンルも、面白そうだったら読む、という自然な読書を貫いているので、文学賞、とくに直木賞についてヘンテコ発言をしたり嫌悪し切ったりするはずがありません。書き手としても(今後はどうかわかりませんが)、自分の経験、体験、見聞を、小説にして発表したりはしないので、ワタシ直木賞ねらっています! という浮かれ記事の主役になったりもしません。

 『書評集』が出たのがつい嬉しくて、こんなエントリーを書き出しましたが、小泉さんと直木賞の交差は、そこまで深くありません。このまま、今日は終わっちゃおうか。

 ……とも思いましたが、やはり直木賞(とおまけに芥川賞)よりも小泉さんは断然勝っている、と思われてきた二つの事例を紹介しまして、直木賞、偉ぶってないで謙虚に精進していこうぜ、と(直木賞に)エールを送ることにします。

 登場していただくのは、豊崎由美さんと阿部和重さんです。

           ○

 一時期、一般財団法人の新潮文芸振興会という団体が、三島由紀夫賞と山本周五郎賞という文学賞を運営していたことがあるんですが、これはいまも続いているんでしょうか(……ってオイオイ)。なにしろ、あまりに存在感が薄く、知っている人が少ないという、文学賞としては、ごくありきたりな普通の装いを保っていまして、直木賞や芥川賞の異常性を際立たせたいときによく比較されたりします。

 豊崎由美さんは、山周賞と三島賞を、あまりに低い知名度のまま運営している主催者の姿勢に、嘆き、そして叱りました。

「実際、芥川賞と直木賞はニコニコ生放送と組んで、選考会当日、井上トシユキ(ジャーナリスト)、栗原裕一郎(評論家)、ペリー荻野(コラムニスト)による候補作解説の時間を設け、受賞会見をネット上で生中継をするという、興行としての試みを数年前から続けています。(引用者中略)

しかるに、三島賞&山本賞はそういう自助努力をしていない。芥川賞&直木賞より知名度が低いくせに、していない。もったいない。実にもったいない。というのも、親愛なる道民の皆さん、新潮社のサイトで三島賞と山本賞の過去の受賞作をチェックしてみてください。すべて、とは言いませんが、ほとんどが大事な時間をささげて読むにふさわしい素晴らしい作品なんです。受賞をきっかけに、もっと大勢の人のもとに届けられるべき作品なんです。なのに、新潮社は“届ける”努力を怠っている。憤懣(ふんまん)やるかたなしっ!」(『北海道新聞』平成26年/2014年6月1日「本の森 トヨザキ社長の鮭児書店 知名度低い文学賞 負けるな三島、山本賞!」より)

 で、豊崎さんが提案する山本周五郎賞改革案が、これです。選考委員に小泉今日子さんを入れること。それだけで、一気に話題性・注目度の面で(も)直木賞を抜けるはず! と言いました(豊崎さんのツイート)。

 直木賞が、小泉さんにかなうはずがありません。

 懸念点は、選考委員ともなれば、選評では何とかゴマかせるかもしれませんが、受賞に推すものを褒めるだけでは済まされなくなります。なぜ自分は評価しなかったかを、推さなかった(愛すべき)小説たちに対して書かなければならない。その役目を小泉さんが受けてくれるかどうか、でしょう。まあ山周賞は、直木賞と違って、小泉さんの「恩師」久世光彦さんの小説を、しっかりと受賞に選んだ立派な実績もありますので、新潮社のみなさん、ぜひ説得、がんばってください。

 もうひとつのハナシは、すこし時間をさかのぼります。10数年前のことです。

 「アメリカの夜」でデビューして以降、まだ何の文学賞もとっていなかった阿部和重さんが、平成10年/1998年1月、「トライアングルズ」で2度目の芥川賞候補となり、そして落ちました。

 ちょうど『an・an』でエッセイを連載していた阿部さんは、これをネタに持ってきます。

「先日、またしても芥川賞に落選しました。さすがにこうしたことが(野間新人賞、三島賞を併せて)6回も続くともうすっかり慣れてしまい、何も感じません」(『an・an』平成10年/1998年2月20日号 阿部和重「アブストラクトな誘惑」より ―引用原文は平成12年/2000年4月・マガジンハウス刊『アブストラクトなゆーわく』)

 最初から候補を辞退しておけば、紅白に出ないPUFFY、のように評価されたかもしれない、しかし「やはり賞はもらっといたほうが得だろうなどと考え」、こうなってしまった。もう、自分にふさわしい賞がつくられることが、最善の解決策と考えるほかない……と続けた上で、本気なのかギャグなのかという感じの阿部ブシを炸裂させました。

「というわけで私は、いまこそこの〈anan〉が、新たな文学賞の設立を行うべきときがきているという結論に達しました。現在、芥川賞に匹敵する、いやそれ以上の価値を感じさせる賞を作家に与えることが出来るのは、〈anan〉しかありませんね。名称は「小泉今日子文学賞」。選考は、「抱かれたい男」と「抱かれたくない男」のNo.1、そして「好きな女」と「嫌いな女」のNo.1に選ばれた人が担当する、というのが適当と思われます。これほど魅力的な文学賞は他にありません。残された問題は、私の作品が受賞作として当選できるかどうかだけです。」(同)

 小泉さんは名前を冠されるだけでじっさいは他の人たちが選ぶ、という構想です。たしかに芥川賞は芥川龍之介に選んでもらえる賞じゃないけど、(文壇の)みんなから好かれています。

 小泉さんが選んだ、と言えば売上も上がるしうれしい、というラインからはるかに進んでいます。「小泉今日子」の名のつく文学賞がもらえるのなら、これは芥川賞よりも魅力的だ、という。阿部さんの表明は、冗談まじりではありますけど、いやじっさいそうかもな、と思わされてしまいます(しまうのか?)。

 小泉今日子文学賞、平成10年/1998年当時はもちろんのこと、いまだって(いまのほうが)欲しがる作家は多い、かもしれません。

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