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2015年7月17日 (金)

第153回直木賞(平成27年/2015年上半期)決定の夜に

 今日は(昨日の7月16日は)、夜、外出していました。帰りの電車は、仕事でくたびれ果てた、直木賞とか芥川賞になど全然関心のなさそうな(と、勝手にこちらが思っている)大多数の人々と一緒の車両。それでも、車両の奥のほうから会話が聞こえてきて、サラリーマン風の男性と後輩OL風の女性が、「直木賞、東山彰良だって。知ってる?」みたいなことを小さな声でしゃべっていたのが、ワタクシには何よりの救いでした。

 以上、ソラ耳以外のなにものでもない妄想は、これまでにしましょう。今回は、事前には激戦だと思っていたんですけど、じっさいは一作だけ飛び抜けて票が集まり、他はほとんど受賞の可能性がなかったそうです。

 え? 何でそうなるんだ直木賞。他の候補作だって、おもしろいの、たくさんあったじゃないか! との思いがおさえきれません。今日も今日とて、直木賞候補の5作品には、このタイミングでやはり、お礼を申し上げたいところです。

 『永い言い訳』の、あの出てくる人物・出てくる人物の、メンドくさい感じに、ワタクシは心つかまれましたよ。専業作家みたいに、常に平均そこそこの作品を読物誌に発表しつづけながら生計を立てるのではなく、西川美和さんのような方が、忘れたころにポツリポツリと小説を出して、それで直木賞を盛り上げてくれる。心づよいです。また忘れたころに、新作を出して、こちらを仰天させてください。

 柚木麻子さんの、直木賞候補になる作品が、どんどんと(いや、今回はとくに)ぶっとんできて、素晴らしいよなあ。何でそうなるんだ、の展開。笑い&ドキドキのまぶしかたとか、もう、直木賞っぽくなくて好き! そのうち直木賞選考委員のほうが、疲れ果てて折れるまで、ぐいぐいと変な方向へと突っ走っていただけると、ワタクシは個人的にうれしいです。

 『東京帝大叡古教授』。直木賞といえば、経年劣化も甚だしく、ほとんど惰性でやっている、いつも変わり映えのしない賞として知られていますが、その直木賞の世界に、これほど背を向けたような孤高の候補作が、近年あったでしょうか! 門井慶喜さんのこの作品がとったら、(予想屋たちがバンバン直木賞に文句を言い始める、という意味でも)今回の直木賞はいちばん面白くなる、と本気で思っていました。これに贈れないとは。直木賞もけっきょく、まだまだ精進が足りず、といったところでしょうか。

 澤田瞳子さんは、ワタクシ個人的に大変思い入れのある作家です。騒ぎだけしか大きくないこんなヤクザな直木賞のお誘いに、このたび候補入りの打診を受けてくださったことが、まずうれしい。実直に一歩一歩高みへとのぼっていく澤田さんには、もうちょっと落ち着いた回で受賞していただくのが、ふさわしいかと。まあ、すでに『若冲』、ものすごく売れているようですので、賞などどうでもよく、慶賀です。

 よし。平成の白石一郎、もしくは古川薫の座には、馳星周さんに座っていただきたい。いまはまだ、選考委員の多くが、馳さんよりも前から直木賞と縁のある先輩作家ですけど、そういったメンツすら退任して、全員が馳さんのデビュー以降に登場した委員ばかりになったころ。願わくばワタクシの生きているあいだに、馳さんの受賞を見てから、あの世に旅立ちたいです。『アンタッチャブル』、さすがの技が各所にちりばめられた楽しい作品でした。

          ○

 しびれますよね。東山彰良さんのカッコよさには。『流』は全篇に重厚さが漂っていて、敷居が高そうなのに、でも軽妙さも散りばめてくれている。小説内世界は広く、真剣なのに、ちょっぴりのおかしみが混ざっている。このバランスのよさ、カッコいいよなあ。記者会見でも、まったくオチャラケることなく、しかし余裕をもって悠然と質問に答える姿に、しびれました。

 なによりしびれたのが、アレです。「今回、芥川賞のほうの取り上げられ方が華々しくなっていること」について問われたのに対し、芥川賞が盛り上がってくれれば、直木賞もその余勢で大きく取り上げてもらえるのでよかったです、といったような回答をされたところです。

 そうそう、まさにそうじゃないですか! こんな直木賞の姿は、今回だけじゃありません。いつだって爆発的に注目を浴びるのは芥川賞。直木賞が、それより華やかに扱われたのは1970年代終盤から80年代の、数年間ぐらいしかなく、あとはずーっと、「ついで」の存在でした。そのことをしっかりと把握し、自然のこととしてサラリと口にされた東山さんに、万雷の拍手をおくります。まったく、カッチョいいぜ。

          ○

 前回にひきつづき、今回も、夜は受賞者記者会見場の帝国ホテルにおじゃましてきました。まあ、その混雑ぶりは、報道のみならず、直木賞・芥川賞なんて全然手をつけたことのないような各メディアまでが、こぞって伝えてくれています。ここでは何も申しません。

 こっちははなから「直木賞への興味」一本で行っています。アウェー感をひしひし味わいながら、(東山さんの言うように)これだ、これこそが直木賞なんだ、直木賞の注目のされなさは、こういうことなんだ、と(ほんの一側面だけですけど)体感できて満足でした。

 さらに、正真正銘のモノズキ野郎の精神を発揮しまして、今日は選考会場の「新喜楽」前をとおり、帝国ホテルでも、何枚か写真を撮って、ツイートしておきました。twilogへのリンク貼っておきます

 と、えんえんと書いてきましたけど、あ、そうだ。直木賞オタクは何をさておいても受賞発表の時間を気にするんだった! そうですよ、大切なのは発表時間でした。

  • ニコニコ生放送……芥:19時25分(前期比+21分) 直:19時36分(前期比+3分)

 惜しい。このあいだのエントリーに書いた本命予想、4分程度の差で外してしまいました……。あともうちょっとかかるかと思ったんですけど。やっぱ直木賞の予想は難しいですね。

 たぶん一生かかっても当てられる予感がしません。だけど懲りずに、次回からも(こっそり)発表時刻当てに挑戦していきたいと思います。もうブログには書かないと思いますが。

 いつだって直木賞は引き立て役。でも(だから)、これほど面白い文学賞はないじゃないか! という感を新たにしました(よね?)。来週は「文学賞メッタ斬り!結果編」があります。『流』を絶賛していた「王様のブランチ」でも、また取り上げてくれるでしょう。8月下旬には、あけてびっくりおたのしみの(今回は全選考委員一致だったみたいなので、びっくりはないかも)『オール讀物』の選評発表。半年後まで、だーれも直木賞に見向きもしなくなる寂しい期間に入るまえに、存分に直木賞を楽しみたいと思います。

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コメント

 昨日はお疲れ様でした。「メッタ斬り」を聴いて、馳星周が出てるから東山はない…という大森さんの予想を聞き、そんな残念な話があるだろうか、と思っていたのですが、「いやなかった」。「流」の掲示が動画で流れたとき、ぶるっとしました。全く個人的なことですが、邱永漢以来の台湾を描いた小説の受賞、邱永漢、陳舜臣に続く「台湾籍」作家の受賞、こんなに喜ばしいことはありません。台湾でも即座にニュースとなり、私の教え子で台湾のテレビ局で働いている子は、私の書き込みを見て、すぐに上司にニュースとしてあげてくれたそうです。
日本では、芥川賞の方がしばらく騒ぎになりそうですが、これから間違いなくすぐに「流」は中国語訳され、台湾でも大ヒットすると思います。そしていずれかの著名な台湾人監督が映画化にとりかかるでしょう。日本と台湾が、文学賞を通じて盛り上がる、こんな瞬間を味わえて幸せです。
 川口さんのご質問も視聴していました。最後になってしまって、東山さんもお疲れそうで、あまり「直木賞」!そのものへの言及は少なめなお答えでしたが、きっと作家の方は、これから「直木賞作家」としての実感を感じていくのでしょうね。
 長文、大変失礼いたしました。

投稿: 和泉司 | 2015年7月17日 (金) 10時42分

和泉さん、

うわー、こんなブログにコメントして下さって、恐縮です……。

今回の候補6作を知ったとき、『流』が入っているのを見て、
まっさきに思い浮かべたのが和泉さんのことだった、
というくらい、ワタクシの頭のなかでは、
台湾と直木賞、といえば和泉さん。艱難辛苦を経て(いや、下馬評どおりの)受賞、
まことにおめでたいです。

記者会見では、
ほんとうは東山さんのこととか、『流』についてのこととか聞ければよかったんでしょうけど、
なにぶん、こちらのいちばんの興味対象が「直木賞」そのもの、なもんですから、
あんな感じの質問になってしまいました。面目ない。

台湾がらみでない回も、ぜひぜひ、今後とも、直木賞をよろしくお願いいたします!

投稿: P.L.B. | 2015年7月17日 (金) 22時41分

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