« 第151回直木賞(平成26年/2014年上半期)は果たしてどこまで行くのか | トップページ | 「昔の文学賞受賞作に比べると、最近の劣化は甚だしい」…『WiLL』平成24年/2012年6月号「芥川賞の退廃きわまれり」深田祐介 »

2014年7月18日 (金)

第151回直木賞(平成26年/2014年上半期)決定の夜に

 今回は首尾よく、ボンクラと言われつづける直木賞が、大ベテラン作家の貫禄にねじ伏せられたかっこうとなって、なんとも爽快な気分です。んなこと言い出したら、直木賞がねじ伏せられなきゃならない作家など、あと何十人もいるような気がしますけど、基本、日本の文学に対してほとんど影響を及ぼさない賞ですので、どうか世間の声など気にせず、好き勝手にやっていってほしいと思います。

 で、とりあえず受賞の話題はわきに置いておきましょうよ。直木賞といえば、何といっても、よりどりみどりで読みごたえのある魅力的な候補作群が主役でしょ、この80年を考えても。そう思うとき、やっぱり毎度のことながら、うちのブログでは、選ばれなかった5つの作品に、感謝と拍手、そして賞讃を送りたくなるのです。

 今回も、真面目で誠実な思いがページからあふれんばかりの貫井徳郎さんの小説に、クラクラしちゃいました。貫井さんは、直木賞などまったく必要としていない方だと思いますし、これからもずっとずっと走り続けてくれることでしょう。多彩な顔をもつ貫井さんのよさが、直木賞みたいなチッポケな賞ではとらえきれないことが、歯がゆいですが、もし次に機会がありましたら、また直木賞と付き合ってやってください。

 『男ともだち』はすごく売れているそうですが、「売れる小説では、直木賞はとれない」のジンクスが、千早茜さんの身にまで降りかかるとは。360度どこから見ても、直木賞の風合い、千早さんはもう「直木賞受賞(予定)作家」を名乗ってもいいんじゃないか、と思っています(いいわけないか)。どんどんと羽根をひろげて、直木賞の枠から飛び出していってしまうその背中を見るのは、直木賞ファンとしては寂しく感じますが、「機を逸する」ことを得意技にする直木賞ですもの。笑ってやってください。

 直木賞の枠から(すでに)飛び出ている、といえば、米澤穂信さんでしょう、何といっても。熱い読者、熱いファンに囲まれて、その熱風を、こんなくだらない古びた文壇行事に持ち込める人は、そうそうはいません。米澤さんのお仕事ぶりのほとんどは、ワタクシまだ読んでいない不勉強者ですが、『満願』、面白かった。これを、少なくとも直木賞を受賞したのと同じくらいの熱で、もっと売らなきゃ駄目じゃないですか、新潮文芸振興会=新潮社は。

 『ミッドナイト・バス』のように、いろいろと小ネタを仕込んで、読み手に楽しんでもらおうとする伊吹有喜さんの思いが嬉しいです。作品のアラや欠点を探しまわることで成立する直木賞(やその界隈)のことなど、たぶん伊吹さんも気にしちゃいないでしょうが、変に小難しい「文芸」に寄っていかず、逆に直木賞で落とされるような小説を、ぐんぐん書き続けていってほしいです。直木賞(とか山周賞)をとる作品が、正解でも何でもないわけですから。

 多くの方が驚嘆しているとおり、あの題名、あの装幀で、こんな直木賞にしか興味のない気狂いのおっさんを、楽しませるとは、柚木麻子、いったいあなたは何者なんだ!? こういう逸材を取り逃がしたり、他の賞に先を越されたりする、哀れな直木賞の姿をずっと見続けてしまったおっさんには、柚木さんの才と未来が、ただただまぶしいです。その光を、少しでもダークな直木賞に恵んでもらえると有難いなあ。

          ○

 受賞作家、黒川博行さん、受賞作『破門』。言うことありません。何の因果か創設以来「功労賞」の役目も担ってしまった直木賞、そのファンでよかった、黒川さんの受賞をこれほどまで喜べるのだもの。『破門』は、「直木賞受賞」などという「あんまり面白くない小説」に押される代表的な烙印がついてまわることになってしまいましたが、むちゃくちゃ面白いですよ! こういう作品が受賞作リストに加わることになって、ワタクシは大満足です。

 しかし、黒川さんはいいんですけど、6度目の候補で受賞(しかも文学賞は平成8年/1996年の日本推理作家協会賞以来)ってね。脱力しませんか。過去5度の直木賞、それと他社の「直木賞マネッコ文学賞」たちは、いったい何をやっていたのか、とそのふがいなさが悲しくなってきます。悲しい。心の芯から喜べない、という直木賞オタクの悲しさを噛みしめながら、半年後の第152回(平成26年/2014年下半期)まで生きていきたいと思います。

          ○

 今回も「ニコニコ生放送」のパブリック・ビューイングを体験しに、下北沢の書店B&B(の隣のビルにあるtag cafe)に行ってきました。

 大森望さんはタコライスを食べ、ほとんど発言もしないうちに、受賞が決まってからは受賞記者会見場へ出発。豊崎由美さんは、受賞本命と見ていた柴崎・黒川の受賞に「やったー、やったー」と絶叫し、杉江松恋さんは、ニコ生に向けたコメントの打ち込みに大忙し。21時半の、受賞者会見まですべて観終わって散会しました。

 今回は、直木賞と芥川賞の受賞者「貼りだし」が同時、というなかなか珍しい展開に。

  • ニコニコ生放送……芥:19時29分(前期比-11分) 直:19時29分(前期比+17分)

 そして、会見場に集まった記者たちの姿が画面に映し出されたとき、「今回は記者の数、少ないみたいですね」「そりゃ、今回は世間的には地味な回だから。文壇界隈としては盛り上がるかもしれないけど」と、豊崎さん&杉江さんが言っていました。ほんとにそうだなと。芥川賞は知りませんけど、業界に属してもいないのに直木賞の発表に関心のある人間など、基本、変人です。全体から見ればほんのちょっとしかいません。そして「ほんのちょっと」であることは、80年間ずっと変わっていないことを、改めて感じ入っています。

 こんなブログのエントリーを読みに来てくださった方も、おそらく変人です。もちろん、書いているほうはもっと変人。お互い、めげずに生きていきましょう。第152回(平成26年/2014年下半期)決定の日まで。

|

« 第151回直木賞(平成26年/2014年上半期)は果たしてどこまで行くのか | トップページ | 「昔の文学賞受賞作に比べると、最近の劣化は甚だしい」…『WiLL』平成24年/2012年6月号「芥川賞の退廃きわまれり」深田祐介 »

ニュース」カテゴリの記事

コメント

部屋の本を整理してたら面白いものが出てきました。

「「電通で陶芸教室の見本ビデオを作るから協力してくれないか」と誘われたことがきっかけで親しくなった(引用者注:藤原)伊織さんは、偶然、大阪の実家がすぐ近所で、しかも乱歩賞では僕が十年先輩で、直木賞では彼が十年先輩という面白い縁もあり、共通の友人である大阪在住の作家・黒川博行さんらも交えて時々飲みました。彼は昨年亡くなりましたが、後にある人を通じて、「伊織さんはじつは東野さんの直木賞受賞(〇六年)を非常に喜んでいた」と聞きました。」
(東野圭吾 2008年5月、角川文庫折込「角川文庫60周年記念 今月の編集長」インタビューより)

今回の黒川さんの受賞も、泉下の藤原さんはさぞかしお喜びのことでしょう。

投稿: 毒太 | 2014年7月27日 (日) 10時29分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/206923/60001497

この記事へのトラックバック一覧です: 第151回直木賞(平成26年/2014年上半期)決定の夜に:

« 第151回直木賞(平成26年/2014年上半期)は果たしてどこまで行くのか | トップページ | 「昔の文学賞受賞作に比べると、最近の劣化は甚だしい」…『WiLL』平成24年/2012年6月号「芥川賞の退廃きわまれり」深田祐介 »