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2014年1月12日 (日)

第150回直木賞(平成25年/2013年下半期)直前集中講座 選考委員になるための5つのポイント

 かつて作家志望者にとって芥川賞はあこがれでした。それに比べて直木賞は長らく、モノ書いてカネが欲しいだけの精神的に卑しい連中に与えられるもの、とされてきました。

 しかし昭和30年代ごろから、徐々に様相が変わっていきます。小説でおカネをもらって何が悪い、と日本人のエコノミック・アニマルたる本領が存分に発揮されていくのにつれ、「うん、有名にもなれるし金も儲かるし、直木賞とるのも悪くないね」と、これをも目標のひとつにとらえる作家志望者が増え出しました。

 さらに時代はくだり、現代。その意識は変貌を遂げます。

 高給取りの編集者に偉そうに指示されながら、汗水流して小説を書き、ちまちまお金を稼ぐなんてダルくてやっていられない、と思う若者が急増します。収入の不安定な作家をめざして直木賞の受賞を目指すのは愚かなことだと、作家志望者たちの「直木賞離れ」が進みました。その結果、一年に二度、人の小説を読んで勝手きままに優劣をつけるだけで百万円も二百万ももらえ、しかも生涯、その収入が保障されている安定した職業……直木賞選考委員になりたい! とその人気が急上昇。いま、カルチャースクールなどでは「作家養成講座」は閑散としているのに、「選考委員養成講座」には、定員をはるかに超える応募者が殺到している、と各種メディアで報じられて話題となっているのは、みなさんご存じのとおりです。

 果たして、どうすれば直木賞の選考委員になれるのか。……いま最も関心をもたれているテーマのひとつと言っていいでしょう。

 第150回(平成25年/2013年下半期)の選考会が1月16日(木)に開かれる直前、「直木賞専門」をうたう当ブログでも、やはり、巷間関心の高いこの話題を無視するわけにはいきません。「直木賞選考委員を育てるスクール東京校」は、K・Hさん、K・Tさんなどを選考委員に就任させた実績で俄然その名が知られるようになりましたが、同校の全面協力のもと、そのエッセンスだけでも、うちのブログで紹介させてもらいたいと思います。

 最も大事なのは以下の5つのポイントだそうです。

■ポイント1 まわりの人たちと仲良くしましょう。

  自己顕示欲が強くて、まわりを気づかう姿勢が足りず、すぐに悶着を起こしたりしていませんか? そういう人は、すぐに改善してください。直木賞の選考会は、2時間3時間、他人から退屈なハナシを聞かされても文句を言わない、おだやかで明るく前向きな仲間を求めています。

 少し前の資料ですが、こんな話があります。

「女流作家が両賞の選考委員に加わるようになったのは、第九十七回(昭和六十二年上期)からで、芥川賞に河野多恵子大庭みな子、直木賞に平岩弓枝田辺聖子が加わったのである。

(引用者中略)女性作家を選考に加えなければ……という意向は、関係者の心中にはあったようだが、容易に実現しなかった。選考委員の入れ替えは通常、委員の辞任、死亡などによる補充として行われるが、新しい選考委員の選定については、まず従来からの選考委員の了承を得ることにしている。それができなかったのである。」(平成1年/1989年12月・オール出版刊 藤田昌司・著『現代文学解体新書』より)

 従来からいる委員に嫌われていないことが、かつては選考委員になる条件だった、と言っているわけですね。

 彼らに選考を委任する主催者にとっても、選考委員同士のあいだでイガミ合いが勃発するのは、好ましいことではありません。ですから、やはりこういう観点での人選を行なうこととなります。

「選考委員は、日本文学振興会の理事長である文藝春秋の社長が大所高所に立って人選する。私は尋ねられれば幾人かの作家を上げられるよう、日頃から心がけていた。選考会だから、協調性のある人であるとつとまらない。」(平成20年/2008年12月・青志社刊 高橋一清・著『編集者魂』「「芥川賞・直木賞」物語」より)

 すぐ喧嘩して、場を台無しにするような人は、作家向きではあるかもしれません。しかし選考委員向きではありません。選考委員を目指すみなさんは、ぜひ、「自分は人サマからお金を頂戴している雇われの身なのだ」という自覚をもてる常識人でいましょう。

 

■ポイント2 面倒な役回りも積極的に引き受けましょう。

 選考委員になりたいという人は、いまの日本にはたくさんいます。しかし、選考委員を人選する人たちは、うらぶれた、よそで注目を浴びていないような人には、声をかけてくれません。

 ですので、ともかくも「消えてしまうこと」「人から忘れられてしまうこと」は絶対的な恐怖なのだと認識してください。そして、それに打ち克つことこそ、選考委員になる日へとつながっていきます。

「自分は直木賞を取っただけの作家で終わってしまうのかもしれない、としばしば不安になった霧の中の十年間でしたが、この期間にもとにかく書き続けてこられたことで、ちょっと腕力がつきました。自分ではすごく良く書けたと思った作品なのに、期待したほど売れなくてがっかりしたことも何度かありましたが、あまりにもたくさん書いたから、売れるも八卦、良い作品も八卦、玉石混交も仕方ないよね、という境地にまで至りました。(引用者中略)

 私は、直木賞以降の年月を自ら「失われた十年」と言うことも多いのですが、なにはともあれ、絶対にすべてを芸の肥やしにしてやる、と思って努力し続けていると、実は後でいちばん胸を張れる期間になっていたりします。」(平成25年/2013年4月・講談社/講談社現代新書 林真理子・著『野心のすすめ』「第三章 野心の履歴書」より)

 なぜ「失われた十年」なのかといえば、十年後に柴田錬三郎賞を受賞したから……つまり文学賞に縁のなかった期間を、ぬけぬけと「失われた」と表現してしまう感覚、自分には持てないなあ、などと思った瞬間、あなたは選考委員の座から遠ざかります。林さんを見ならわなくてはいけません。

 林さんの場合は、受賞前に十分メディア露出を果たしていましたから、その後は、少し控えても問題はありませんでした。しかし、多くの人に顔が知られた時期がある、ということは重要です。もしあなたが、目立ちたがり屋で、人前に出ていくことに抵抗がないようであれば、テレビやラジオ、講演などなど、大勢の前に出られる仕事は進んで引き受けましょう。

 自分はそういう柄ではない、とあきらめる人がいるかもしれません。がっかりしないでください。オモテに出ることがイヤならば、ウラで頑張る手もあります。たとえば阿刀田高さん、北方謙三さん、東野圭吾さんなどが務めた日本推理作家協会の会長職は、いまでは「直木賞選考委員への近道」とすら言われています。グループ内の集まりなどでは、「長」のつく仕事――これは基本、面倒な仕事が多いですが――は、イヤそうなそぶりをしてでも引き受けることが重要、というわけです。

          ○

■ポイント3 誰に何と言われてもへこたれない強い心を持ちましょう。

 選考委員のお仕事として、「選評」を書く、という作業があります。おおよそ決められた制限枚数はありますが、何をどう書いても自由です。ひとつも候補作に触れずに提出しても、何の問題ありません。基本、わざわざ選評に目を通す読者は、文学賞ごときに興味をもつような「人間のクズ」なので、そこではいくらテキトーなことを書いても大丈夫、というのが業界内の了解事項になっています。

 それでも選評は、自分より人気があって発言の影響力もある候補作家などが目にします。うかつに便所の落書きみたいなことは書けません。また、大森望さん、豊崎由美さん、以下、これをサカナにあることないこと攻撃したがる人たちも少なからず存在します。たかが文学賞の選評を書いただけで、人格攻撃に近い言説が投げつけられることも、ままあります。覚悟したほうがいいでしょう。

 最も賢明なのは、やりすごすことです。

「しみじみ感じたのは、なまじっか才能があり、自尊心の強すぎる奴ほど、手に負えないものはないということです。

(引用者中略)

 文壇のような世界は、あくまで個人の力と才能だけで、運、不運などが通用する世界ではありません。

 そういう世界で、あらためてなにが必要かということになると、いい意味での鈍さです。

 むろん、その前に、それなりの才能が必要ですが、それを大きくして磨いていくのは、したたかで鈍い鈍感力です。」(平成19年/2007年2月・集英社刊 渡辺淳一・著『鈍感力』より)

 まさしく。渡辺淳一さんは直木賞選考委員の鑑のなかの鑑といって、何の過言もありません。いずれ「渡辺二世」と褒め称えられる日を目指して、あなたも渡辺さんの背中を追いつづけてください。

 

■ポイント4 他の賞であっても、委員就任の打診は断らないようにしましょう。

 浅田次郎さんが言うように、直木賞は、他の賞とは比べものにならないほどに別格です。たとえば山本周五郎賞とか吉川英治文学新人賞とか、あるいはその他の、隣り近所の人が誰ひとり知らない、いや、日本人の9割9分はその存在すら知らない文学賞から、選考委員の声がかかっても、時間がとられるだけだし、二の足を踏む。それが人情というものです。

 しかし「ポイント2 面倒な役回りも積極的に引き受けましょう。」にもつながりますが、とにかく就任の打診があったときは、断ってはいけません。「あの人は、集団のなかでもきちんと行動できる人だ」という印象を、編集者のあいだに残すことが肝要なのです。

 あなたの知らないようなチッポケな文学賞にも、選考委員として働いている人たちがいます。その姿を見て、「あの人たちヒマなのかな」、などと思ってはいけません。ライバルたちは、直木賞選考委員の椅子を確保しようと必死でがんばっているのです。あなたも負けてはいけません。いますぐ『月刊選考委員ガイド』を購読し、どこか空席の出そうな賞はないか探して、アプローチを始めてください。

 

■ポイント5 はやりの小説は読まないようにしましょう。

 かつて直木賞の選考委員は、候補作を読んでこないほうが一流委員の証し、と思われていた時代がありました。「候補作を読んでこない委員」に関する豪華なエピソードは数知れません。

「両賞の選考委員に、超流行作家ばかりズラリと並んだ時期がある。そのころ直木賞で、“白オニ”、“赤オニ”の対決が話題になった。いずれも人気を二分する東西の作家である。“赤オニ”氏は超多忙で、候補作に目を通している暇もない。で、選考当日、迎えに出向いた編集者にクルマの中で“ご進講”を受けることになる。(引用者中略)

 “白オニ”氏はそのへんを見すかして、意地の悪い質問を、“赤オニ”氏に放つ。

「へえー。おもろいな。で、その後はどうなるの?」

 “赤オニ”氏は答えられず、怒髪天を衝くばかりとなる。だが、“白オニ”氏だって、候補作を全部読んでいるわけではない。ただ、自分が推そうと思う新人の候補作だけはよく読んでくるのである。

 “赤オニ”氏はそのへんを見すかして、“白オニ”氏に反撃する。かくて、かなり険悪な空気になることもしばしばだったという。」(前掲 藤田昌司・著『現代文学解体新書』より)

 などという、世紀の松本VS司馬対決は、もはや語り草です。

 その後で選考委員になった新田次郎さんは「自分は全部の候補作を読む」ことを強調したとも言われ、以後は、「読んでこない選考委員」が持て囃されることはなくなりました。しかし選考委員の責任範囲は、あくまで候補作のなかから授賞を決めることです。そこを履きちがえてはいけません。自分は現代の小説動向にも詳しいのだぞと見せびらかそうとして、頼まれてもいないのに、若手作家たちの小説を読むのはハシタないことです。注意してください。

 むしろ、候補作ではじめてその作家の小説を読む、というぐらいが、選考委員にとっては理想なのです。直木賞は、あまねく小説界のなかの優秀作を決める場ではありません。下手に、いま流行の小説、などに気をまわすことは、直木賞では最もあるまじき行為です。慎みましょう。

          ○

 最後に、選考委員を目指すあなたへ、先輩たちからエールの言葉を。

伊集院(引用者注:伊集院静 最終的に自分が納得できる結果になるのは、半分もいかないんじゃないかな。作家は未来を知ることができないわけだし、そう考えると本当に大変なことを毎回やっているなと思います。自分が推した作品が受賞を逃すと悔しい思いもしますが、出た結果が本当に良かったかどうかなんて、のちになってわかることですから。」(『オール讀物』平成26年/2014年1月号 林真理子、伊集院静「新しい小説のために」より)

「朝起きてから夕刻に家を出るまで直木賞の選考について最後の思案をめぐらす。(引用者中略)わるい作品のあろうはずもなく……だから困る。まったくタイプの異なる作品を比較するのだから、ものさしの当てようがないようにも思える。それでも蛮勇をふるって一つに賭けるのが選考委員の仕事だろう。(引用者中略)

 そして、その選考会。夕刻五時から築地の新喜楽で始まり、同業作家たちの忌憚のない小説観がうかがえて楽しい。

 ――このごろ私の小説観、古くなっているかなあ――

 と反省も込みあげてくる。」(『文藝春秋』平成25年/2013年9月号 阿刀田高「この人の月間日記」より)

 先輩方もみな悩みながら、勇気をもってお仕事を続けています。あなたも先輩たちのように立派な選考委員になれるよう、研鑽を続けましょう。

 第150回(平成25年/2013年・下半期)では、選考委員の候補生として、朝井まかて伊東潤千早茜姫野カオルコ万城目学柚木麻子、以上の6名が、その実作品による書類選考を受けることになっています。当然、受賞すればその分、選考委員にいたるまでの道は近くなりますが、関門を通過しなくても、この選考を受けるだけで、いずれ選考委員になる可能性は開けたわけです。

 いったいだれが、次世代の直木賞選考委員に最もふさわしい人材だと判断されるのか。……1月16日、午後7時から8時ごろには、その判断内容が公にされるはずです。それもまた、選考委員になるための貴重な参考となること請け合いです。選考委員になりたくて当ブログを読んでくださった方がたのうち、ひとりでも多くのひとが、望みどおり直木賞選考委員になれるよう、心から応援しています。

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コメント

P.L.Bさま

こんにちは!
いよいよ選考会の日が近づいてきましたね。
ニコニコ動画では、18時頃から生放送をやるそうです。

結果が『受賞作なし』なんてことだけにはならないで欲しいです。(でも、十分あり得そう・・・。)

投稿: まひろ | 2014年1月12日 (日) 21時23分

まひろさん!

また近づいてきてしまいましたよ、選考会の日が!
いったいどういう結果に落ち着くのか楽しみで楽しみで
もう、からだじゅう至るところの血管がドクドク音を立てています。

150回記念ということで、選考会のあとも、文春がいろいろと
盛り上げ企画を用意してくれているそうなので、
当分、この熱、冷めそうにありません。

投稿: P.L.B. | 2014年1月12日 (日) 23時56分

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