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2013年7月14日 (日)

第149回直木賞(平成25年/2013年上半期)は、40~45、17~20のなかの争い。

 直木賞が、小説の内容や優劣だけで決まる賞ではない、ってことは、みなさんご存じのとおりです。

 受賞作がおもしろいとかつまらないとか、何万部売れたとか売れないとか、そんなことは、直木賞全体の魅力からすれば、まったくチッポケなことです。オマケ程度のことです。

 ……というわけで、小説の評価から離れて「直木賞らしい直木賞の楽しみ方」を満喫できるよう、うちのブログでは毎回、選考会の前にネタ系のエントリーを書いています。ときに、今週水曜日7月17日の第149回(平成25年/2013年・上半期)選考会がせまってきました。今回もやはり、6つの候補作それぞれの位置づけを確認して、来たる選考会を迎えたいと思います。

 で、全国の字組ファンの方、お待たせしました。これまで当ブログでは、候補作の重量だの、表紙の色だの、装丁家だの、いくつかの切り口から候補作を紹介してきました。だけど、アレです。候補作品の「体裁」と言って、最も選考委員の脳に影響を与えるもの。それは「字組」に他なりません。

 まず、パッとページを広げたときの印象。スカスカで安っぽいな、と思わせるか。逆にギッチリ詰め込まれていて、読みごたえがありそうだな、と思わせるか。ちょっと他とは違う個性を感じさせるか。あえてオーソドックスさを選ぶことで、版面から滲み出る主張を抑えるか。……印象は大事です。

 さらに、文字を追う「作業」のなかでも、字組の違いは大きくモノを言います。天地・小口・ノドからの余白、フォントの種類や大きさなどが、どれほど重要な役割を占めるか、本づくりに携わっている方なら、当然ご存じでしょう。とくに直木賞なんてものは、基本どれが受賞してもおかしくないぐらいの小説ばかりが候補になります。選考委員たちの脳の奥底に残ったわずかな印象が、最終的に当落を決める分かれ目になります。

 じつは、全国には長年にわたって趣味で直木賞の予想をしている人たちがたくさんいて、おのずとネットワークが形成されています。ワタクシは、そのなかの20名ぐらいを知っていますが、うち一人から、こんな話を聞いたことがあります。「福井のある町に、伝説の予想屋と呼ばれている人がいて、その人は候補になった本をパラパラとめくって字組の感じを見るだけで、当落の可能性を割り出すらしい。しかもそれが、けっこう当たるらしい」と。世の中は広いです。

 そのハナシを聞いてからというもの、ワタクシも、候補作の字組に注目するようになりました。直木賞をとりまく字組にも流行があり、あまりに古いデータは参考にならないと思うので、ここでは過去5年分の、受賞作・候補作を並べてみました。本来、頁四辺の余白や、書体・文字の大きさまで考慮すべきですが、一頁の行数×一行の文字数、だけにフォーカスしてあります。これだけでも、だいたい、直木賞の好む字組かそうでないか、を見るには十分でしょう。

 今回、直木賞で好まれるのは、湊かなえ『望郷』と宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』の二作、次いで桜木紫乃『ホテルローヤル』だ、ということがわかります。

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 最近の候補作は、一頁行数18行・19行のあたりにひしめき合っています。なかで18行のほうが直木賞では有利に働き、さらに行あたりの文字数が少ないと、概して受賞率が上がります。要するに、幾分ゆったりとした組み方をしたり、大きめの文字を使ったりしている本です。選考委員たちに心地よく感じられるゾーンが、ここにある、というわけです。

          ○

 右(20行・21行)もしくは下(44字・45字)に行くと、文字がギュッと詰まって、ボリューム感と力作感を与えるゾーンになります。ここ5年でこのゾーンから生まれた唯一の受賞作が、第140回の山本兼一『利休にたずねよ』(44字×20行)でした。

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 基本、一頁あたりの字数が多いと直木賞では不利、ということは、いまさらワタクシが指摘するまでもありません。常識として知られているとおりです。

 たとえば2年前、高野和明『ジェノサイド』(45字×21行)が候補に挙がりました。このとき、あまりに字が多すぎることを理由に、これが直木賞をとるわけない、と事前から落選を予想する声が多かったことは、記憶に新しいでしょう。

 それだけではありません。ほら、『楽園のカンヴァス』(44字×21行)や『ラブレス』(43字×21行)が、もう少し、行間をあけて「ゆったり感」を出していれば、直木賞に手が届いたのではないか、と選考後、ウワサが立ちましたものね。

 それに比べて、原田マハさんの『ジヴェルニーの食卓』(41字×19行)は字数を抑える体裁をとっています。桜木紫乃さんの『ホテルローヤル』(40字×17行)も相当、頁内の文字数が減りました。これらの事実をもって、両者の作品がかなり受賞に近づいた、と見る人が多いのも、よくわかります。

 さあ、字数の多さで忘れてはいけないのは、伊東潤さんの『巨鯨の海』(45字×20行)でしょう。ガツンと来ました。迫力と重量感では、第149回候補作中の随一と評判です。

 伊東さんといえば、かつて『城を噛ませた男』(44字×20行)、『国を蹴った男』(43字×19行)と、「直木賞にしては多め」のラインで候補になったことがあります。候補三度目でそろそろとるのではないか、と視線が集まります。にもかかわらず、ここで思い切って字数を増やし、「オレは既成の直木賞に収まるつもりはないよ」と、あたかも宣言しているかのような展開。……さすが伊東さんだ。オトコのなかのオトコ、とはこういう方のことを言うのでしょう。

 恩田陸さんもまた、「多め」の作家として有名です。

 候補に挙がった『きのうの世界』(44字×20行)も『夢違』(43字×19行)も、ここ5年の直木賞の流行からは、少し外れていました。今回の『夜の底は柔らかな幻』(43字×20行)もまた、とりやすいゾーンからは離れています。

 それでも、「字数多い本ファン」の期待は、ほんとうに熱いです。少しネットを見れば、そろそろ字数が多い本に直木賞をとらせるべきだ、という声がたくさん挙がっています。

 上記の『夜の底は柔らかな幻』は、文藝春秋の本です。さすが文藝春秋は、直木賞の裏の裏まで知りつくしていますから、選考委員たちが快適さを感じる字組、というものを経験上、知っています。じっさいそれが文藝春秋の本が直木賞をとる率の高い一因とも言われています。

 湊かなえさんの『望郷』は、43字×17行に収められています。最近の直木賞では、最も受賞しやすい狙い目、とされる字組です。このあたり、直木賞をよく知る文藝春秋のワザと言っていいでしょう。

 同じ43字×17行、いわゆる「狙い目」の字数でも、四六判より短辺の短い変形の、宮内悠介さん『ヨハネスブルグの天使たち』を、これと同列に見るのはさすがに無理があります。この本が直木賞候補作として異色であることは間違いのないところです。ただ、受賞に有利な字数であることがどこまで選考委員の高評価につながるのか、ってことも第149回の注目点のひとつだ、とする意見にワタクシも同感です。

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 とは言いつつ、以上のようなことは、直木賞のごくごく一部です。そりゃそうです。「この本はゆったりと字が組んであって読みやすいねえ」とか「比べてこっちは、ちょっと詰まりすぎじゃないか」などと、字組の話題だけで2時間も3時間も、選考会の場がもつはずがありません。直木賞って、多少は、小説の内容についても議論したうえで決まるらしいんですね。7月17日(水)。あと3日です。

 発表は19時すぎでしょうか。きっと受賞結果が決まっても、受賞作と落選作の字組の違い、なんて馬鹿バカしいことを話題にする報道は皆無だろうと思います。ほんと、直木賞の受賞報道って、いつもいつも一辺倒でおもしろくないよね、とブツクサ言いながら、受賞した作品、しなかった作品、それぞれの「字詰め」に思いを馳せてみてください。……ほら、これであなたも、直木賞病患者の仲間入りです。

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コメント

最初からpeleboさんは桜木さん本命の予想でしたよネ(^^)
桜木さんはヨソの下馬評にはほとんど上がってなかったんですよネェ。

ボクも前回の選評や、読みやすくスッと入る文章から本命に挙げてたので、とてもキモチイイです。
まぁ結果の予想としては「恩田さんとの二作受賞」だったのでハズレなのですが。

そういう意味でもサスガpeleboさん、直木賞の申し子ですネ(^^)

投稿: しょう | 2013年7月21日 (日) 21時54分

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