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2010年1月10日 (日)

第142回直木賞(平成21年/2009年下半期)候補のことをもっと知るために、色で占う。

 ふむふむ。野村順一さんの声に耳を傾けてみますと。

「色は言語を超えたサインである。カラー・コミュニケーション(color communication)とは、個々の色のシグナルやメッセージを伝え、人間心理に固有の感情を引きおこす作用のことだ。色が人間の感覚器官にはたらきかける光の振動として考えるとき、それはとても感覚的である。」(平成6年/1994年7月・ネスコ刊、文藝春秋発売 野村順一・著『増補 色の秘密 最新色彩学入門』「増補の序」より)

 なある。なんだかんだと文学論を持ち出してきたり、過去の選考会の様子から傾向を見出してウンヌン、と難しいことを考えたりする前に、見るべきものがあるだろう、と。

 たしかに。「色」が及ぼす影響、ちゅうものも重要そうですね。

 第142回(平成21年/2009年・下半期)の直木賞は、今週木曜日の1月14日に、選考会が開かれます。それに先立ち、すでに6つの候補作が選ばれています。

 みな単行本です。そして、それぞれ「色」を持っています。

 以前、候補作を「重量」をもとに並べたことがありました。今回もそのときと同じで行きます。全候補作のカバーを剥いで、選考委員の方々が手にとる姿――裸の本体部分に注目することにします。

100110142k6_2

 これらの色をじーっと見ていると、それぞれの色の特性から、受け取る人間の印象がなんとなく分類できてきて、多くの票を獲得しそうなものと、そうでないものとが、おのずと判明してきますよね。

 よね?

100110 今回の6作だけ見てもつまらないので、いつもながらの悪いクセで、最近の候補作も概観してみました。

 キリのいいところで、だいたい過去10年分。第121回(平成11年/1999年・上半期)からごっそりと、全132作品(138冊)。そのうち、受賞したものは、紫の枠で囲ってあります。

 ははあ。赤っぽい系統は、なにげに強いなあ。真っ白いのより、少しだけクリーム系・グレー系の色味のついているほうが、受賞しやすいみたいだなあ。それにしても、黒っぽい系統は、戦績がよろしくないなあ。

 ……などなど、シロウトのワタクシの、おぼろげな解釈を語っても、しかたないわけでして。

 ここは、色彩心理のことについて書かれた文献を参考に、第142回候補作を見ていきましょうか。

          ○

100110142k 白石一文『ほかならぬ人へ』(平成21年/2009年11月・祥伝社刊)

 限りなく白に近いですけど、クリーム色っぽい。とりあえず「黄」として見てみます。

「黄の人は神経を網の目のように細かく張り巡らせていますから、たいへん頭の回転が速く、頭脳明晰。論理的な思考力、理解力、冷静な判断力に優れています。と同時に、鋭い知性に裏打ちされたユーモアのセンスが抜群の方も多いものです。そんな人は洗練されたシニカルな笑いを取るのも、お手のものです。(引用者中略)

 興味の赴くままに楽しんでやってきたことを、ライフワークにしてしまう才能も持っています。インフォメーションとエンターテイメントをくっつけた“インフォテイメント”という造語がありますが、その言葉のように、自分の実益と娯楽を組み合わせた仕事は、黄の人にピッタリです。」(平成16年/2004年9月・大和書房刊 泉智子・著『色の暗号―カラーセラピーで知る本当のあなた』より)

 まさに、「頭がいいだけでは小説は書けない」などと以前の候補のときにバッサリ斬られた、白石さんそのものの色、でしょう。

          ○

100110142k_2 辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』(平成21年/2009年9月・講談社刊)

 誰がみても「緑」ですね。

「緑の人は自然体でオープン、素直で誠実な“いい人”。飾らない人間性が、一服の清涼剤のような安らぎや安心感を周囲にもたらします。」(同『色の暗号』より)

 石田衣良さんの「直木賞をとるには人柄が大事」理論を採用するならば、この作品の人柄(……作柄?)は、そうとうなプラス要素です。

 ただ、

「ただし協調性を大切にする緑の人は、自分の感情を出さずに抑え込みごちです。他人との葛藤を極力避けようとするため、本心は違うのに長いものに巻かれてしまう傾向があります。」(同『色の暗号』より)

 他作との激しい競い合いになったときには、厳しいってこと? 「他には受賞に足る作品がない。じゃあ、この小説で……」というタナボタ式の受賞過程が、ほら、あなたの目の前に見えてきましたか。

          ○

100110142k_3 葉室麟『花や散るらん』(平成21年/2009年11月・文藝春秋刊)

 真っ黒といえばミステリー、かと思いきや、時代小説のこの作が、今回もっとも「黒」。

「黒には感情の機微がわからない、何を考えているのか見せない、というイメージがあります。つまり、反応を示さない色ですから、ものに動じないとか、話しかけづらい、距離がある、孤高、といったような、ちょっとほかの人とは違う印象を与えます。」(同『色の暗号』より)

 たしかに。唯一の時代小説、って意味だけじゃなくて、作風的にも、類似の作家が意外に見当たらない「孤高感」は、ひしひし伝わってきます。

 そして、そんな独自性に注目している選考委員もいます。お一人だけですが。五木寛之さんには十分伝わっているはずの『花や散るらん』の、孤高感、この真っ黒っ黒ななりで、他の委員にも伝わるでしょうか。

          ○

100110142k_4 池井戸潤『鉄の骨』(平成21年/2009年10月・講談社刊)

 ここから以下3作は、単色じゃないので、なかなかツカみづらい連中です。

 『鉄の骨』は、まずざっくりと「グレー」がベースである、ととらえてみちゃいましょう。

「「どぶねずみ色」つまりダークグレーという色の特質は、無彩色で、明暗(白黒)もハッキリしない没個性の色です。グレーが好きな人は、受け身で、個性を抑制する傾向があるともいわれています。

 これは、日本のサラリーマン社会の特質にみごとに当てはまります。」(平成7年/1995年5月・曜曜社出版刊 渡辺洋子・著『生活をコーディネートする 色の雑学知識』より)

 日本のサラリーマン社会を「悪」と見立てれば、選考会でもあまり評判がよくないのかもしれません。でも、過去の実績をみて、グレー系統の作品だってボツボツ受賞できているのは、そう、ここが日本だからです。たぶん。

          ○

100110142k_5 佐々木譲『廃墟に乞う』(平成21年/2009年7月・文藝春秋刊)

 「黒」基調ではありますが、なんつっても、「ゴールド」系統が目に焼きつくことを狙ったデザインです。「ゴールド」とは、つまり、こんな色なんですって。

(引用者注:人生において)あらゆるものを手に入れたとしても、それらが色褪せてしまうものばかりでは、心は満たされません。お金や名声ではなく、目に見えないものの価値を知ることが重要です。ゴールドは、人生の中でさまざまな障害にぶつかったり、挫折を繰り返したりという過程を経て、自分にとっての永久不滅のものを見つけていく人です。」(前掲『色の暗号』より)

 直木賞をとったところで、そんな名誉では、『廃墟に乞う』の心は満たされないかもしれません。それでも、この作品はまったくメゲることなく、読み継がれていってくれるんだろうな、とわかって、おじさんは安心してしまうのですが、かつて「黒+ゴールド」で尻を見せた候補作『M』(馳星周 第122回候補)の例が頭によみがえってきちゃいます。選考会のゆくえはやや不安です。

          ○

100110142k_6 道尾秀介『球体の蛇』(平成21年/2009年11月・角川書店刊)

 複雑な色づかいですが、全体的に「青っぽい」ってことで、まずは「青」の力を取り上げてみます。

「青には洞察力、観察力を高めたり、自分のポリシーやモラルを確固たるものにする力があります。「人はパンのみして生くるものにあらず」という聖書の言葉がありますが、青は物質的な充足だけではなく、目に見えないものにこそ重要な価値があるという真理に気づかせてくれる色でもあります。」(同『色の暗号』より)

 いいじゃないですか。「目に見えないものにこそ重要な価値がある」ですって。直木賞みたいなモロ俗物的なことを語っている場面に、こんな言葉を突き付けられたら、いったい選考委員たちはどんな反応を示すのか、想像するだに面白そうじゃないですか。

 ただ、一抹の不安がよぎるとすれば、全面イラストのために、いろいろな色が使われている点でしょう。多色づかいのイラストは、どうも直木賞の選考会では通過するのが難しいらしいです。『片想い』(東野圭吾 第125回)、『生誕祭』(馳星周 第130回)、『火天の城』(山本兼一 第132回)、『むかしのはなし』(三浦しをん 第133回)、『ハルカ・エイティ』(姫野カオルコ 第134回)、『失われた町』(三崎亜記 第136回)、『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦 第137回)……全滅です。

 ピンと張り詰めた緊張の場である(?)選考会。そこに多色のイラストが持ち込まれると……。浮いちゃう?

          ○

 当たり前ですが、色彩は、本人(つまり候補作)がどんな色をしているか、って視点だけでは大した重要性をもちません。それを見る人間の側が、その色をどのように感じ、どう反応するのか、ってほうこそ、きっと大事です。

 ですので、桶村久美子さんの『色の法則 衣食住に秘められたラッキーカラー』(平成19年/2007年11月・河出書房新社刊)に、こんな参考になる情報が載っていましたので、こっそりご紹介しておきます。

 ずばり。高齢者の好きな色・嫌いな色。

「高齢者の好きな色のトップは「ピンク」、嫌いな色のトップは「黒」という結果が出ました。これは、私(引用者注:著者の桶村氏)がカラーコーディネートを担当した大阪市と堺市にある四つの老人ホームで、六十七歳から九十九歳までの九十八名(約八割が女性です)に直接ヒヤリングを行なって、そのデータをまとめたものです。

(引用者中略)

好きな色―――1位 ピンク(22人)、2位 青(17人)、3位 紫(14人)、4位 緑と赤(各10人)

嫌いな色―――1位 黒(24人)、2位 ブラウン(16人)、3位 グレーと赤(各6人)、5位 黄(5人)」(『色の法則』より)

 その結果は、1月14日(木)午後5時からの選考会にて判明します。通常、決するのは午後7時~8時(まれに9時ごろ)ぐらい。各メディアのみならず、さまざまなブログやtwitterでも、すぐに結果を知ることができる幸せな世の中です。時間ができて余裕があったら、うちの親サイトものぞきに来てください。

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