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2009年1月11日 (日)

第140回直木賞(平成20年/2008年下半期)候補のことをもっと知るために、その重みを知る。

 まず、順位を発表いたします。

 さて、第140回(平成20年/2008年・下半期)の直木賞選考会を今週木曜日1月15日に控えて、今日のエントリーの主役は、これら最新の候補作6つについてです。

 たとえば発表された候補作を事前にすべて読んで、自分なりの予想を立てつつ、その日を迎える。小説好きにはたまらない至福の時間ですよね。

 いや、でも5つも6つも小説を読むなんて、時間の無駄だ。まして、どこまで楽しい小説を読み解く力があるかよくわからない50代、60代、70代のおじさんおばさんたちが選んだ受賞作だけを読む、なんてのも不安でしょうがない。……そうそう、人生は貴重です。そして小説選びは慎重にいきたいところです。

 前置きが長くなりました。あなたは次に読む小説をどうやって決めていますか。ネットに出ている紹介文ですか。本に巻いてあるオビですか。装丁のパッと見の雰囲気ですか。パラパラとめくってみて、どれだけ活字が詰まっているか(いや、逆にどれだけ余白が多いか)ですか。

 今回の、うちのブログの視点は「読みごたえ」です。

 ……間違えました。もとい。「持ちごたえ」です。重さです。重量です。

 一篇の小説を読む、その行為のなかでもかなり大きな比率を持つ(はずの)、手にとったときに感じる重み。読み終わったとき、重ければ重いほど、ああ、これほどの重作を自分は読破したのだなあ、と満足感もひとしおです(ってほんとか)。

 過去の直木賞は、どれほど重みのある小説が受賞してきたのか、気になったので調べてみました。そしてせっかくなので、今回の6つの候補作も同じ土俵で量ってみようじゃないかって寸法です。

 なにせ、ほら、今回は天童荒太さんが候補に挙がっていますからね。またの名を「シャジ(謝辞)スト」、またの名を「五分冊の貴公子」。第121回(平成11年/1999年・上半期)では『永遠の仔』が上巻510グラム、下巻585グラム、計1,095グラムとあまりに重くて(違う違う、あまりに長くて)選考会で不評を買ったあの天童さんが。

 それでは、素晴らしき重さの世界をひもとく前に、今回の候補作たちのズッシリ感を確認しておきましょう。はかりかたは、実際に選考委員のみなさんが手にとる状況を想定させてもらいました。つまり、第42回(昭和34年/1959年・下半期)~第132回(平成16年/2004年・下半期)の長期間にわたって、賞の運営にたずさわった元・文藝春秋編集者、高橋一清さんの証言を参考にしました。

(引用者注:予選候補に選ばれた作家たちから)応諾を得ると、文藝誌や同人誌はコピーにかけ、活字の大きさをほぼ一致させた、簡単なとじ本を作る。極力同一条件で審査が受けられるようにとの配慮からである。直木賞の単行本は帯もカバーも付けず本体のみを(引用者注:選考委員に)届ける。それらがせっかくの作品に禍を招くこともあるのだ。」(平成20年/2008年12月・青志社刊『編集者魂』所収「「芥川賞・直木賞」物語」より)

 ってことで量るのは「本体のみ」の重さです。重い順に並べると、こういう順番になるわけです。

  • 530グラム 恩田陸『きのうの世界』
  • 476グラム 天童荒太『悼む人』
  • 472グラム 山本兼一『利休にたずねよ』
  • 412グラム 道尾秀介『カラスの親指』
  • 376グラム 北重人『汐のなごり』
  • 354グラム 葉室麟『いのちなりけり』

 1位から6位までたった約180グラムしか開きがないじゃんか、と見えるかもしれません。しかしこのわずかな重量差が、直木賞の場ではさまざまなドラマを生み出してきました。

          ○

 オールド直木賞ファンには申し訳ないんですが、今回はとりあえずキリよく、過去10年分のみ対象とします。これで今回の候補者のかつての全候補作をとらえられる、ってこともありますし。第121回~第140回の20回分です。

 候補作はずらりと120作。そのうち25作品が受賞しました。

 下にそれら全作の重さを掲げておきます。目をこらしてよくご覧ください。これじゃあ、どれがどれだかわかりゃしない、もっとハッキリ見せてくれ、という酔狂な方のために、拡大ページもご用意しました。

140  まず重量クラスからいきます。恩田陸さん『きのうの世界』が属する「530グラム超級」です。

 最重量での受賞は、おお、さすが弁当箱作家の面目躍如だ、京極夏彦さんが『後巷説百物語』(第130回)で打ち立てました。785グラム。こりゃあ重い。ここ10年の受賞作のなかではダントツです。

 もちろん、大作でおなじみ船戸与一さんも黙っちゃいません。船戸作品のなかでは抑えぎみではありますが、585グラムの『虹の谷の五月』(第123回)で、バッチリ受賞。もう貫禄です。

 しかし、肩書きに「重量作家」と付きそうな上のお二人を除いては、重量クラスは軒並み選考会では苦戦、酷評を受けています。

 あの『永遠の仔』を抜いて見事、最重量候補の座についたのは馳星周さん『生誕祭』(第130回)、上下巻あわせて1,220グラムと圧倒的。「ダークなものは重くなくっちゃね」のルールにのっとった定石どおりの造本だったのですが、筋力の弱った方たちにとってはあまりに重すぎて、選考会ではずぶずぶと沈んでしまいました。

 今回の『きのうの世界』はさすがにそこまで重くはないので、まさか沈まないとは思いますが。ひさしぶりに「持ちごたえたっぷりの受賞作誕生」の声が聞きたいものですが、どう出ますか。

          ○

 逆に軽量すぎても、直木賞の場では不利になります。

 300グラムを下回った「超軽量級」候補は5作品ありました。恒川光太郎『夜市』(第134回)、奥田英朗『マドンナ』(第128回)、森絵都『いつかパラソルの下で』(第133回)、伊坂幸太郎『死神の精度』(第134回)、絲山秋子『逃亡くそたわけ』(第133回)。そしてこれらがどんな選考結果を突きつけられたかは、みなさんご存じのとおりです。

 320グラムよりも軽いからだで、2~3時間の選考会をのりきるのはやはり至難のわざのようです。たとえば江國香織さんは、はじめ314グラムの『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』(第127回)で挑んだものの、実力派作家との前評判のわりには意外に手ごたえがうすく、この軽さでは通用しないことを悟り、次に20、30グラム増量して、『号泣する準備はできていた』(340グラム 第130回)でようやく認められました。

 今回の最軽量は、葉室麟さん『いのちなりけり』。時代小説にしてはかなり(そうとう)軽いほうです。しかし、そこは過去の例をきっちりと踏まえて、軽くて受賞した稀有な時代小説、乙川優三郎さん『生きる』(第127回)より、8グラムほど重くしてこの場まで勝ち上がってきました。さすが、両作とも制作担当は文藝春秋、重さに関しても抜かりはありません。

          ○

 案外、戦績のかんばしくないのが430489グラムの重量帯です。

 26作の候補が、ここに属していましたが、受賞にいたったのは、はるか10年前の佐藤賢一『王妃の離婚』(第121回)、桐野夏生『柔らかな頬』(第121回)の両作と、軽量級での失敗を教訓にして這い上がってきた森絵都『風に舞いあがるビニールシート』(第135回)、この3つしかありません。

 じっさい、これよりワンランク軽くなれば、過去の統計でもけっこう受賞率が高くなります。なぜか430489グラムのクラスは、ものすごく重いわけでもない、かといって適度な重さと言うにはちょっとかさばりすぎていて、不思議に毛嫌いされてきました。

 天童荒太さん『悼む人』、山本兼一さん『利休にたずねよ』の二つが、今回「400グラム台中級」の壁に果敢にいどみます。ともに作家としての実績も申し分なし、直木賞にそうとう近い位置まで候補経験を積み重ねてきた本命路線のお二人ですが、その重みがアダとならないことを祈ります。

          ○

 412グラムの道尾秀介さん『カラスの親指』と、376グラムの北重人さん『汐のなごり』は、その適度な重さによって、微妙に受賞率が高まりました。書店の棚に置いてもらいやすく、そっと手にとっても自然に受け入れられるノーマルな重さ。「大衆文芸」を選考対象とする直木賞にふさわしく、重さもしごく大衆向きです。

 しかし、油断はなりませんぞ。たしかに受賞率の高いクラスなんですが、それでもここに属した候補作だって、7割、8割がたは落選してきたのですから。

          ○

 果たして「持ちごたえ」を基準にして、次に読む本を決める人なんているんだろうか。そうだよなあ、そんな疑問が頭にのぼるのを懸命に振り払いながら、このクソ寒いなかひたすら120冊の重さをはかりました、などとは恥ずかしくて人に言えません。

 でも、漏れ伝え聞くところによれば、今週木曜日の1月15日には、選考会場の料亭「新喜楽」に10台のハカリが運び込まれて、6冊の本の重さを2~3時間かけて量るそうです。計測結果が出ましたら、うちの親サイトでもお知らせします。まあ、覚えていたら見にきてやってください。

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コメント

親サイト共にこちらも拝見させていただいております。
愉快で且つためになるお話をいつも楽しませていただいておりますが、今回の観点、かなり面白かったです。
ニヤニヤしながら読ませていただきました。
ただ面白いだけじゃなく、大人の事情も合いまみれる直木賞選考ですので、こんな見方も大有りだと思っちゃいました(笑)
重さで言うなら、第136回のとき『空飛ぶタイヤ』に受賞してほしかったかな、なんて思っちゃいました。

投稿: | 2009年1月14日 (水) 23時51分

お。『空飛ぶタイヤ』大好きの同志のかたですか。コメント、ありがとうございます。
「なぜ直木賞では文庫オリジナルやノベルスの小説が予選候補作品に挙げられないのか、それはあまりに重量が軽すぎるからだ」
ってところまで筆を伸ばしたかったんですが、
一歩手前でふみとどまりました。
なにせ、本来は「何でもアリ」なはずの直木賞ですから、そのかたちを取り戻してもらって、
軽いのも重いのも(あるいは、ネット小説のような重みのないものまで含めて)いろいろと候補に挙げていってほしいな、と願いつつ。

投稿: P.L.B. | 2009年1月15日 (木) 01時53分

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