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2008年7月の11件の記事

2008年7月27日 (日)

編集者が丁寧に短篇を選び分けていた最後の世代。 第104回候補 東郷隆「水阿弥陀仏」

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第104回(平成2年/1990年・下半期)候補作

東郷隆「水阿弥陀仏」(平成2年/1990年11月・東京書籍刊『人造記』より)

 隆さんの次の週にまた隆さん、とは何と出来すぎた流れじゃありませんか。

 半分はネラいです。でも半分はほんと偶然です。

 平成の直木賞を語るうえで、宮部みゆき東野圭吾と並んで絶対欠かしてはならない存在、おひとり目の宇江佐真理さんについては『ウエザ・リポート』の回で取り上げました。そして、もうおひとかたが、この東郷隆さん。なにせ候補回数が6度もありますので、どれを「名候補作」とするか迷いましたが、うん、ここは衝撃の一発目でしょう、やはり。

 でも今回は、東郷さんご自身のことや、または直木賞への発言といったハナシには大して触れません。今週より4週間はほぼ最近の作品を取り上げる予定ですが、平成に入ってのことですから、みなさんも記憶に新しいでしょう。ワタクシなぞが披露できる話題は、そんなにないわけです。話題の選択に困ったときには、我田引水で逃げたいと思います。

 直木賞の歴史のことです。

 第101回(平成1年/1989年・上半期)~第110回(平成5年/1993年・下半期)の期間で、直木賞に起こった大きな転換とは何か。そうそう、『オール讀物』の編集長が藤野健一さんから中井勝さんに変わった、ってことも見逃せない要素でしょうけど、いや、それまでの“直木賞らしさ”を形成していた候補群のある特徴が、消えていく時期にちょうど当たることです。

 直木賞にとっての短篇および短篇集の扱いについてです。

 たとえば、第104回(平成2年/1990年・下半期)、東郷隆さんの候補作は決して短篇集『人造記』ではありません。そこに収められた「水阿弥陀仏」「放屁権介」「人造記」の3篇のみが対象です。出久根達郎さんの候補作も『無明の蝶』なんかじゃないのです。そこに収録されている「靴」「雲烟万里」「赤い鳩」は、断じて直木賞候補作ではないのです。

 え、何なんだ、それは。意味わからん。……などと声に出して言ってはいけません。

「東郷隆の名が広く人口に膾炙しはじめたのは、やはり本書『人造記』が刊行されてからのことで、表題作及び、本書収録の「水阿弥陀仏」「放屁権介」が第一〇四回直木賞の候補作となった。何故、一冊まるごとではなくこの三篇なのか理解に苦しむが、(引用者後略)(平成5年/1993年11月・文藝春秋/文春文庫『人造記』縄田一男「解説」より)

 まっとうな解釈では「理解に苦しむ」でしょう。でも、実際、そこに「直木賞らしさ」があったはずなのです。平成2年/1990年までは。

 なぜ星新一の候補作が『人造美人』や『ようこそ地球さん』ではないのか。なぜ向田邦子の受賞作が『思い出トランプ』ではないのか。長部日出雄は。谷克二は。田中小実昌つかこうへい赤川次郎は。なぜなぜなぜ、の連続です。

 そこを掘り下げる前に、まずは東郷さんの作品について、ちょっとご紹介しておきましょう。『人造記』は5篇の小説を収めた短篇集です。書き下ろしの「人造記」を除いては、『中央公論増刊』『BRUTUS』『野性時代』『歴史読本 臨時増刊』にすでに発表されていました。巻頭の「水阿弥陀仏」は、『中央公論 臨時増刊 ミステリー特集』昭和62年/1987年第15号[12月]が初出です。

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2008年7月20日 (日)

まさに直木賞が逸した長蛇の代表格。山口瞳に深ーく未練を残させる。 第95回候補 隆慶一郎『吉原御免状』

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第95回(昭和61年/1986年・上半期)候補作

隆慶一郎『吉原御免状』(昭和61年/1986年2月・新潮社刊)

 うっ。あまりにも有名作家すぎるので、正直、ブログを一回お休みするふりしてワタクシは尻尾をまいて退散したい。それでも、あえてこの方のこの作品をご紹介するのは、「これぞ名候補作」リストから、まさか隆さんを外すわけにはいかないからです。

 隆さんと直木賞、ってネタで言えば、この小説デビュー作『吉原御免状』よりも、第101回(平成1年/1989年・上半期)候補の『柳生非情剣』のほうが受賞の近くまで行ったはずです。それは『オール讀物』の選評を読むとわかります。しかし、だいたい直木賞エピソードのおいしいところは、「公式文書」以外に転がっているものです。

 「おれは隆慶一郎のことなら毛穴の数まで知っているぜ」と自負する数多くのファンの方々には申し訳ないですが、きっと以下のハナシは既知のことでしょう。まあ、この場はあくまで「直木賞」メインのブログなものですから目をつぶってやってください。隆慶一郎のことをそれほど知らない方のために書かせてもらいます。

 隆さんといえば、お仲間に、最近集英社文庫が復刊され始めた広瀬正や、お医者さんの妻で5児の母親だった川野彰子がいます。つまりは、ほんの数年の作家活動、そのわずかな間に直木賞候補に何度か挙がり、さあこれからというときに、早すぎる死。……隆さんの61歳~66歳の閃光は、あまりにまぶしいけれど短すぎます。

 結果として柴田錬三郎賞を受けたのが、隆さんにとって最後の文学賞になっちゃいました。今の柴錬賞は、すごろくで言えば直木賞の一コマ二コマ次ぐらいに位置しているんでしょうが、隆さんが受けた第2回の段階ではどんな賞になるかまだわからない時期だったはずですからね、ひょっとすると柴錬賞→直木賞、のルートを隆さんが切り開いてくれた可能性もあったかもしれません。

 没後19年、今さら隆さんの偉業を振り返って、「まったく直木賞ってやつは、節穴もいいとこだな」とせせら笑うのは、もう後出しジャンケン以外の何物でもないんですが、後出しは後に生まれてきた人間の特権です。存分に活用させてもらいましょう。「隆慶一郎の『吉原御免状』は何が理由で、直木賞をとれなかったのか」を、あくまで資料の上から突つきたいと思います。

 まずは、近しい人が語る『吉原御免状』の落選理由から。

「『吉原御免状』は時代考証に問題があるという一部の選考委員の強硬な反対で、惜しくも賞を逃した。

「直木賞残念でしたね」

「なあに、賞なんて……」

 隆慶一郎は何事もなかったような顔で答えた。

(賞なんて取ろうと思えばいつでも取れるさ)という意味か(賞なんて問題にしてないよ)という意味だったのか、分からない。だが、私は後者の方だと受け取った。」(松岡せいじ著『隆慶一郎 男の「器量」』平成9年/1997年1月・本の森出版センター刊、「偉ぶらない、自慢しない」より)

 隆=池田一朗に師事したシナリオライター・松岡せいじさんの言葉です。これを裏返してみれば、「一部の委員の反対さえなければ、直木賞をとれた」とも読めます。

 さて、どうなんでしょうか。

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2008年7月15日 (火)

第139回直木賞(平成20年/2008年上半期)決定の夜に

 中村彰彦理論またまた的中。って言って通じる人は、残念ながらワタクシの友人にはいないんですが、今晩、第139回(平成20年/2008年・上半期)直木賞が決まりました。

 さて今回も、拙ブログではエントリー書かせてもらいます。受賞とはいかなかったけれど、楽しい読書体験をもたらしてくれた候補者の方々に感謝を込めまして。

 荻原浩さんがもし直木賞をこのままとれないで、数十年がたったら、きっと未来の読者の多くが、あれ、この人ってとってなかったっけ? と首をかしげることになると思います。個人的には過去3度の候補で、今回の『愛しの座敷わらし』がいちばん受け入れられそうに思いましたけども。今の選考委員のラインナップと、どうにも相性が悪いんですかねえ。まあ、たった数人の年長者に認められなくても、荻原さんにはン万人(?)のファンが付いていますから、今後、何の心配もないはずです。

 新野剛志さん。ミステリーファンの一人としては、もし今後、新野さんが直木賞の舞台に関わることがあるなら、ぜひミステリーで、と期待してしまいますが、それはともかく、新野さんなりの「格好いい小説」をとことん突き詰めていかれることを、祈っています。“こんなふうな作品書けば、直木賞とれますよ”みたいな、編集者のミスリードにひっかからないでくださいね。

 いつもいつも「直木賞」の枠組みのなかで醸し出す異質さが好きです、三崎亜記さん。五木寛之さんがいつも好んで使うセリフ、「この作家は直木賞をとらないところに栄光がある」は、確かに慰めでも何でもなく、三崎さんの作風にハマります。とれたら快挙、とれなくてもキラリ輝く、稀有な作品を、これからも引き続きお願いします。

 このあいだ候補になった『火天の城』が評判高すぎましたからね、山本兼一さんに期待する選考委員のハードルは、そうとう高いところに設定されているんでしょう。まあ、そのハードルを越そうが越すまいが、兼一さんの進んでいく足取りに、大した影響はないと信じます。“こんなふうな作品書けば、直木賞とれますよ”みたいな、編集者のミスリードにひっかからないでくださいね。って、くどいですか。

 「歴史好きというより戦国時代好き」とおっしゃる和田竜さんのことは、ときどき時代小説も読む読者の一人として、ものすごく応援したくなります。ツーカイな小説、大歓迎です。これから他の出版社からも次々お声がかかるでしょうけど、またいつか、小学館から小説出して、それで直木賞なんかとっちゃって、より一層の「ツーカイさ」を振りまいてください。

          ○

 井上荒野さんが直木賞をとって、何が嬉しいといって、やはり作家歴の長さの割りには、文学賞というスポットライトの当てられるタイミングがあまりなかった方に、ようやくその順番が回ったことです。長年ひとつの道で研鑽を積めば、注目が向くこともあるのだ、と他人事ながら何だかホッとする思いです。さあ、これで「フェミナ三人娘」の二人まで直木賞を受けて、残るは今後の木村英代さんの活躍に期待だあ。

 親サイト「直木賞のすべて」でも、ポロッとつぶやきましたけど、直木賞の流れから見れば女性上位時代いまだ崩れず。とはいえ、男性作家の小説が全然つまらないか、っていうと全然そんなことないのは、読書好きの同志なら、うなずいてくれますよね。そう考えると、直木賞の歴史的流れと、小説界全般の潮流とは、まったく別ものだし、過去の直木賞を語るときも、その前提だけは崩さずに考察していきたいなあ、と改めて思わされました。

 ええと、芥川賞については……ワタクシはよくわからないので、コメントしません。まあ、鬼のように蛇のように、わんさか突っ込まれるだろうなあ。

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2008年7月13日 (日)

第139回直木賞(平成20年/2008年上半期)候補のことをあと一歩知るために、「足もと」を見てみる

 Ayalistさん、いつもうちのサイトのことに触れてくださって、ありがとうございます。「仕事が丁寧で深くて」のお言葉、まるまるお返ししたくなるくらい、「綾辻行人データベースAyalist」の充実ぶりには、つねづね頭が下がる思いでいます。

 と、唐突にお礼の言葉から始めましたが、そうですか、いよいよあさってですか。7月15日(火)は第139回(平成20年/2008年・上半期)直木賞の選考会の日です。

 ワタクシ、記憶をさかのぼってみて、どんな候補ラインナップの回でも、直木賞を楽しめなかったときが過去1度もなかったものですから、「今回はまるで盛り上がらない」ふうな文言を目にするたび、キョトンとしてしまうのですが、そうです、どうせこちとら病気ですよ。ほっといてください。

 ほっとくわけにはいかないのが、直木賞のハカリにかけられる6つの候補作です。いや、その逆で、これら1つ1つの作品のハカリの上に、「直木賞」っていう取り扱い注意の危険物が、6通りの姿で乗せられるわけでもあります。まあ、「直木賞」なんて、ずーっと一定の安定した物差しを内蔵しているわけじゃないんですから、どっちかっていうと、「直木賞」=「ハカリにかけられる側」、と見立てたほうがお似合いです。直木賞よ、各作品から選んでもらうのは君のほうなんだぞ。もっとしゃっきりしなさい。

 先週の拙ブログでは1週間、6人の候補作家の登場当時の事柄ばかりツツきました。まあ、どんな評価を受けてデビューしたかは、ちょっとはわかった、けど今回の候補作がどんな作品なのか何も取り上げてないじゃん、とふくれてしまったあなた。昔のことを振り返っても仕方あるまい、今のハナシをしてくれよ、と現実を直視したいあなた。

 わかりました。6つの候補作について取り上げましょう。

 ただ、ワタクシは、どの小説も面白かったですよ、だからぜひとも読んでみて、ぐらいのどーにもならない言葉しか吐けません。かといって、ヘタに誰かの論評とかを引用するのも公平性に欠きますし。

 ですので、ここは一気に語っていただきましょう。6人の候補者ご当人たちに。

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2008年7月12日 (土)

第139回候補・三崎亜記 3年9ヵ月前に第17回小説すばる新人賞受賞 「新人賞の選考会で、「この作者は天才かもしれない」という発言を耳にしたのは、私は今回が初めての経験でありました」

 デビュー作にしてベストセラー、のハナシだったら三崎亜記さんのも負けちゃいません。記憶に新しすぎて、振り返るのも憚れますけど、『となり町戦争』が発売から1年4ヵ月後に映画化されたときのニュースソースでは「16万部」の文字が躍っています。

 この小説を小説すばる新人賞に選んだのは5人の選考委員でした。そのうちの4人が、10ヵ月後にもう一度、同じ作品を直木賞で選考することになって、褒めてるのか不安がってるのか、よくわからない選評を書いてしまった、っていうのはすでにワタクシたちが目にした過去です。

 今日のエントリー・タイトルには、5人のうち直木賞委員ではなかった唯一の人、宮部みゆきさんの言葉を使わせてもらいました。

「蛇足ながら、新人賞の選考会で、「この作者は天才かもしれない」という発言を耳にしたのは、私は今回が初めての経験でありました。」

 宮部さん自身が「天才かも」と言ったわけじゃない、ってのがミソでして、宮部さんは悩みに悩んで、結局はこの作品を“推した”わけではないことが、選評に滲んでいます。

「『となり町戦争』という課題作を与えられ、解答用紙を手渡され、何日も悩んだ挙句、私は設問のどれひとつに対してもちゃんとした解答を書くことができませんでした。」(宮部みゆき「解答用紙の裏側に」より)

 この応募作、かなりの“難問”だったようで、大なり小なり選考委員のみなさんに、「これって才能なのか。それとも、たまたま書けちゃっただけなのか」と思わせてしまったのは確からしいです。ただひとり、自信満々の賛辞を塗り重ねたアノ委員を除いて。

■選考委員

■応募総数

  • 1,176篇

■最終選考委員会開催日

  • 平成16年/2004年9月22日

■最終候補 全3篇(…◎が受賞作)

  • 御清 街(受賞後・三崎亜記に改名)「となり町戦争」◎
  • 弘吉青雨「味わう傷」
  • 浅野朱音「オリエンテーリング!」

■賞金

  • 100万円(正賞は記念品)

■発表誌

  • 『小説すばる』平成16年/2004年12月号・集英社刊

 何の疑いも差し挟まず、とにかく褒め言葉を羅列した、といえば、もちろん井上ひさしさんです。他の委員が「才能」の面にこだわって、ああでもないこうでもない、と悩んでいるらしいのに、ひさしさんだけは、そんな難しいハナシをすっ飛ばして、とにかく作品の出来の高さだけをベッタベタに評価しました。

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2008年7月11日 (金)

第139回候補・和田竜 4年7ヵ月前に第29回城戸賞受賞 「同題材の先行する小説も何作かあり議論となりましたが、(略)圧倒的な高評価を得ました」

 20万部突破だそうで、おめでとうございます。返品率が30%として(甘いですか?)実質14万部。もちろんそれだけで、和田竜お披露目の儀としては、きっと想像以上の大成功ですよね。それに比べたら、直木賞候補のハナシなんて、蛇足も蛇足、ささいなことに過ぎません。

 これを「まったく新しい時代小説だ」なんて言ったら、きっと何十年も時代小説を愛好している方々に「どこが?」と怒られるはずなので、ワタクシはぐっと口をつぐみます。ただ、ワタクシもやはり、“ふだん時代小説って読まないんだよなあ”って人がいたら、宮地佐一郎じゃなくてコッチを勧めますよ。もちろん。

 『のぼうの城』の原型は、和田さんが4年前にシナリオライターの公募賞・城戸賞を受賞した「忍ぶの城」。ってことなので、直木賞オタクサイトとしてはかなり遠出の旅行となりますが、今日は城戸賞のことです。「城戸」とは誰ぞや、みたいなことは、wikipediaとか、日本映画製作者連盟のサイトとかに、綿々と語られておりますので、どうぞそちらを。

 景山民夫青島幸男の登場を待つまでもなく、そりゃあ、直木賞はずーっと昔から、大昔から、映像業界からの生き血を吸って(?)棲息してきた生きものなのです。そらそうだ、なんたって「直木三十五」さんの賞だもの、当たり前ですか。

 どっちかって言うと、城戸賞→直木賞のベクトルが、今までなかったのがおかしいくらいです。

■選考委員

  • 松岡功・和泉吉秋・本木克英・ほか

■応募総数

  • 230篇

■最終選考委員会開催日

  • 平成15年/2003年11月?

■最終候補 全10篇(…◎が受賞作)

  • 和田竜「忍ぶの城」◎
  • 秋満隆生「祭囃子が聞こえる」(準入選)
  • 谷慶子「タイブレーカー」(準入選)
  • ほか7篇

■発表誌(入選作・入選の言葉・総評の掲載のみ)

  • 『キネマ旬報』平成16年/2004年1月下旬号・1397号(通巻2211号)・キネマ旬報社刊

 和田さんはこの前年にも、時代劇シナリオ「小太郎の左腕」で城戸賞の候補に残っていまして、2年連続の最終候補。その筆力は群をぬいて圧倒的で、まったく文句なく受賞が決まったようです。いや、ちょっとだけ懸念の声が挙がったらしいですが。

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2008年7月10日 (木)

第139回候補・山本兼一 4年2ヵ月前に第11回松本清張賞受賞 「登場する“職人”が皆、どこか同じ鋳型で作られたかのような匂いがするのが、今後の課題かもしれない」

 いかんなあ、いかんいかん。ワタクシは文春の手先じゃないんだぞ、たしかに山本兼一さんは清張賞作家ではありますけど、さらに元をたどれば『小説non』出身なんだから、そっちに注目しなきゃ。

 昔の『小説non』誌は、そんじょそこいらの図書館には置いてありません。ちょっと調べようと思うと、明らかに他社の読み物系小説誌にくらべて差別を受けていることがわかるんですが、なぜか東京では目黒区立守屋図書館にどっさり残っています。同誌の「短編時代小説賞」は、創刊150号のときだけ単発で催されたもののようです。……かと思いきや不定期に(定期的に?)行われているらしくて、ウィキペディアンのどなたか、ぜひ調査をお願いしますね。

 いちおう、山本兼一さんが佳作となったときの同賞のことは、調べておきました。かなり穴だらけですが。

■選考委員

■応募総数

■最終選考委員会開催日

  • 平成11年/1999年4月~7月?

■最終候補 全7篇(…◎が受賞作)

  • 来宮 隆「月冴え」◎
  • 山本兼一「弾正の鷹」(佳作)
  • 坂下真之輔「迷い子石」
  • 藤川未央「恩誼の器」
  • 葛飾千子「埋火」
  • 伊藤尚彌「夜の匂い」
  • 王城寺竜太郎「破談お受け候のち」

■賞金

  • 100万円、佳作50万円

■発表誌

  • 『小説non』平成11年/1999年9月号・祥伝社刊(佳作の掲載は平成11年/1999年10月号)

 残念ながら、と言いますか、当然ながら受賞した来宮さんの「受賞のことば」は載っているんですが、佳作の兼一さんは、ことば無しです。選評を書く笹沢さんも、「弾正の鷹」については、そんなに多くの文量を割いていません。

「候補作は七編とも、水準が高かった。着想と文章は、それぞれプロ並みといってもいいだろう。しかし、これは仕方がないことだが、どこかにものたりないところがある。それを捜し出すという消去法によって、入選作を決めることにした。」

 とのことで、一つ一つ、候補作の欠点を挙げていき、最後にチロリと佳作と入選作のことに触れる、という選評なのです。

「この結果、劇画調ではあるが妙に新鮮な派手さがあり、奇抜な信長暗殺計画というアイデア、読者を引き込む迫力も加えて山本兼一氏の『弾正の鷹』を佳作に推した。」

 これだけじゃあ、さすがにこっちもエントリー一回分持たんぞ。

 しかたない。やっぱり文春の軍門にくだって松本清張賞のこと、取り上げることにしますか。

■選考委員

■応募総数

  • 892篇

■最終選考委員会開催日

  • 平成16年/2004年4月20日

■最終候補 全4篇(…◎が受賞作)

  • 北重人「天明、彦十店始末」
  • 田村正之「夏の光」
  • 樋上拓郎「そしてクジラは眠る」
  • 山本兼一「火天の城」◎

■賞金

  • 500万円(正賞は時計)

■発表誌

  • 『文藝春秋』平成16年/2004年7月号・文藝春秋刊

 松本清張賞ほど有名な賞だもの、説明は省略します。

 と油断していたら、ガッツーンとやられちゃいました。そうなんだ、清張賞ってそこまで有名じゃなかったんですね。悄然。

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2008年7月 9日 (水)

第139回候補・新野剛志 9年0ヵ月前に第45回江戸川乱歩賞受賞 「筆に勢いがついた時が愉しみである」

 伊坂ショックが駆け巡るなか、こんなに地味に淡々と候補者・候補作のことを紹介してる場合なのかいな、と思いつつ、今日は新野剛志さんの番です。

 6人の第139回候補者のうち、唯一この方だけは、デビュー時の受賞のことばや選評を、インターネットで無料で自由に読むことができます(→日本推理作家協会のサイトですね)。なので、ここで取り上げる意義も大してありません。だけど、フェミナ賞に触れたくせに乱歩賞を無視するのは、どうも寝つきが悪いよなあ。なにせ乱歩賞だもんなあ。

 乱歩賞作家にして直木賞の候補者は、新野さんで15人目です。いや、“まず直木賞の候補になって、そのあとで乱歩賞をとる”なんていうウルトラD技を決めてくれた多岐川恭藤本泉のご両人は別格でしょうから、それを除いて13人目。うち5人が見事、直木賞を授けられました。

 たとえば先輩・東野圭吾さんが、直木賞史のなかで大変珍しい存在であるのは、6度も候補に挙げられたことじゃなくて、乱歩賞でのデビューから13年も経ってはじめて候補に選ばれた、その長さにあります。乱歩賞→直木賞初候補までの過程は、おおむね、「すぐ」か「7~8年かかって」か、2つのパターンに分かれますが(例外は4年の桐野夏生と、13年の東野圭吾)、今回の新野さんは後者のパターンです。

 そんな“苦労組”に属する先輩がたには、真保裕一さんや池井戸潤さんがいます。ワタクシ個人的には、かなりお二人の受賞を期待していたんですけど、直木賞委員のお口には合わなかったようで。残念。

 ならば、『あぽやん』はどうだ。これなら、ミステリー嫌いの委員の方でも、おいしく召し上がっていただけそうですけど。

 そもそも、この新野さんがミステリーの新人賞から出てきたってことが、今さらながら振り返ってみると、ちょっと場違いだった気もします。

■選考委員

■応募総数

  • 289篇

■最終選考委員会開催日

  • 平成11年/1999年6月22日

■最終候補 全5篇(…◎が受賞作)

  • 新野剛志「マルクスの恋人」(受賞後「八月のマルクス」に改題)◎
  • 木村千歌「そして、僕はいなくなった。」
  • 首藤瓜於「うじ虫の災厄」
  • 奈津慎吾「落日の使徒」
  • 堂場瞬一「ダブル・トラブル」

■賞金

  • 1,000万円(正賞はシャーロック・ホームズ像)

■発表誌

  • 『小説現代』平成11年/1999年8月号・講談社刊

 プロの作家も普通に参戦する乱歩賞ですから、公募賞とはいえ、レベルはおおむね高いはずですが、この回の乱歩賞はどうもあんまり芳しい出来じゃなかった模様です。……ってワタクシがそう判断したわけじゃないですよ。選考委員の方々、口を揃えておっしゃっています。

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2008年7月 8日 (火)

第139回候補・荻原浩 10年9ヵ月前に第10回小説すばる新人賞受賞 「この書き手はどんな応用篇もこなしてゆける腕の持ち主ではないか」

 井上荒野を語るときに江國香織は欠かせません。であれば、荻原浩のかたわらには断然、直木賞受賞者・熊谷達也の存在があります。あの方が受賞できたのなら、こちらの方が受賞するのに何の不自然さもないですもんねえ。

 10年9ヵ月前、コピーライターだった荻原さんは初めて小説を書きまして、熊谷さんとともに小説すばる新人賞を受けました。それからの両者の活躍は、同賞出身作家のなかでも、そうとう目覚ましいものがあります。

 平成9年/1997年当時のことを、ちょっと思い返してみましょう。この年の夏には、はじめて同賞出身の作家・篠田節子が直木賞を受賞して、“小すば”の名がより以上に高まりました。その興奮(?)さめやらぬうちに、こんな2人の実力派受賞者がドーンドーンと生まれて、まさに集英社文芸部門が乗りに乗っている頃だったんですなあ。おお、なつかしい。『鉄道員』なんてベストセラーも生まれちゃいましたしねえ。

 で、このときの小説すばる新人賞は、3つの最終候補が争いました。

■選考委員

■応募総数

  • 1,231篇

■最終選考委員会開催日

  • 平成9年/1997年9月24日

■最終候補 全3篇(…◎が受賞作)

  • 荻原浩「牛穴村 新発売キャンペーン」(受賞後「オロロ畑でつかまえて」に改題)◎
  • 熊谷達也「ウエンカムイの爪」◎
  • 永嶋恵美「詐話師たちの好日」

■賞金

  • 100万円(正賞は記念品)

■発表誌

  • 『小説すばる』平成9年/1997年12月号・集英社刊

 時の集英社の磁力のおかげか、集まった最終候補は、強豪ぞろい。ほら、2人の紳士にわずかながら及ばなかったけど、永嶋恵美さんって、今や作家としてご活躍中の永嶋恵美さんっぽいです。今度荻原さんが直木賞とったあとは、次は永嶋さんが直木賞の舞台に登場してくれることに期待が高まります。

 って気が早すぎるぞ、もう。

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2008年7月 7日 (月)

第139回候補・井上荒野 19年5ヵ月前に第1回フェミナ賞受賞 「ちょっと純文学臭が強すぎるが、女主人公のまなざしが魅力的」

 『切羽へ』で候補に挙がった井上荒野さんの、華々しい登場は19年5ヵ月前、第1回フェミナ賞のときです。

 フェミナ賞っていっても、有名なほうじゃなくて、すでに姿を消してしまったほうのヤツですので、もはや「歴史」となってしまった観もあります。かく言うワタクシ、恥ずかしながら今回はじめて、同賞の主催・発表媒体であった学習研究社の雑誌『季刊フェミナ』を目にしました。時代は平成1年/1989年、しかしそんなことを感じさせない「創刊のことば」の何とも大仰なこと。やたら新鮮です。

「今、私たち三人の現役の作家が集り、新しい才能の出現のために、ささやかながらまたひとつの文学への門戸を開くことにした。

 すでに何十年も作家を職業として書きつづけながら、かつてひとり手さぐりで習作していた頃の孤独と不安と自信のないまじった心の昂揚を忘れることが出来ない。つい昨日のように思い出されるそれ等の日々と同じ情熱と不安を今抱いている人々のために、新しい雑誌を送り出すことにした。

 私たちは発見した才能の芽が大輪に開花するまで、手ぬきをせず見守る園丁でありたい。」

 との「創刊のことば」の主は、同誌の編集委員に名を連ねる3人の女性。大庭みな子瀬戸内寂聴田辺聖子。実際に書いたのは寂聴さんだそうです。

 まあいわば、新しい書き手を発掘して育てる気満々といったところ。寂聴さんいわく「今度の雑誌はフェミナ賞を中心にして編集していく新しい投稿雑誌で、選者の三人が編集の責任も負うという点に特色がある」んだそうです。

 果たして、その一発目であり、かつ誌命2年間での最大最高の成果が、「フェミナ」創刊記念と銘打たれたこの第1回フェミナ賞だった、というのはたぶん明らかですよね。

 概要は、こんな感じでした。

■選考委員

  • 大庭みな子・瀬戸内寂聴・田辺聖子・藤原新也(海外旅行中のため欠席)

■応募総数

  • 1,098篇

■最終選考委員会開催日

  • 平成1年/1989年2月14日

■最終候補 全8篇(…◎が受賞作)

  • 井上荒野「わたしのヌレエフ」◎
  • 江國香織「409ラドクリフ」◎
  • 木村英代「オー フロイデ」◎
  • 高崎綏子「地上漂流」
  • 福富奈津子「小さな貴婦人」
  • 藤邑藍子「シルバー・プラン」
  • 丸岡泉穂「あふれた無邪気が罪になる」
  • 本吉洋子「夢のトポロジー」

■賞金

  • 各70万円

■発表誌

  • 『季刊フェミナ』創刊号[平成1年/1989年5月]・学習研究社刊

 初回だからでしょうか、学研も太っ腹なところを見せ、3人も受賞者を出しちゃいます。ええと、学研が太っ腹というか、賞金総額100万円を予定していたのに、なぜか途中でプラス100万円を寄付してくれたオリエント・ファイナンス社が太っ腹と言うべきですか。

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2008年7月 6日 (日)

第139回直木賞(平成20年/2008年上半期)候補のことをもっと知るために、「初心」に帰ってみる

 「これぞ名候補作」のご紹介は2週間ほどお休みです。「昔の直木賞のことならいろいろ知りたいけど、ふん、最近のハナシには全然興味ないぜ」という、毎度拙ブログをご覧いただいている方、申し訳ありません。7月20日にまたお会いしましょう。どうかお元気で。

          ○

 さて、半年に1回、選考会の前には、楽しくその日が迎えられるようにと、拙ブログでは、なんとか自分の視点で候補作のことを取り上げています。前々回は吉川新人賞山周賞との関わり、前回は「このミス」との関わり、と無理やりでも候補群を大観できる切り口を持ってきたんですけど、うーん、今回はけっこうやっかいですぞ。

 第139回(平成20年/2008年・上半期)の6人の候補作家、6つの候補作を、ザクッと一目で見渡せる見方なんてあるのかいな。……思いつかないので、ここは初心に帰りまして、「初心」に帰りましょう。

 ってことで、まずは一つの図をこしらえてみました。

080705_2

 今回の6候補は偶然にも(でもないか)、みんな公募賞を受賞した経験を持ち、そこから作家活動をスタートしています。たとえば井上荒野さんは平成1年/1989年フェミナ賞を受賞、三崎亜記さんは平成16年/2004年小説すばる新人賞を受賞、って字づらでは目にしているし、理解しているつもりだったんだけど、やっぱり視覚化してみると、各人の作家歴の長短がよくわかるなあ。そしてこう見ると、アレノ姉さんの20年っていうのは段違いだなあ。

 ついでに、前回第138回(平成19年/2007年・下半期)はどんな感じだったんだろう、と思って同じ縮尺でつくったみた図がこちらです。

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