« 2007年12月 | トップページ | 2008年2月 »

2008年1月の5件の記事

2008年1月27日 (日)

人間・菊池寛

 三十五さんと何らか縁のある直木賞関連作家とくれば、第一に出版社経営で揉めに揉めた挙句ケンカ別れした鷲尾雨工でしょう。第二に大阪のプラトン社で一緒に働いていた川口松太郎でしょう。第三は……そうか、この方かもなあ。

080127w170 『人間・菊池寛』佐藤碧子(平成15年/2003年9月・新風舎刊)

 いや、菊池寛のほうじゃありません。直木三十五と関わりある直木賞関連作家とは、著者の佐藤碧子さんのほうです。

 佐藤さんはその昔、戦後まもなくの頃、小磯なつ子の筆名で小説を書いていた方で、夫は元・文春社員の石井英之助さん。その英之助さんが戦後に参加した六興出版部の雑誌『小説公園』に、「雪化粧」を発表して第23回直木賞の候補になりました。

 この回は、今見るとけっこうバラエティに富んだ面白い顔ぶれの候補者が揃っていて、ワタクシの好きな回のひとつなんですけど、その小磯さん、またの名を佐藤さん、果たしてご本名は石井さんが、昭和36年/1961年に新潮社から出版したのが『人間・菊池寛』。それを40年以上たって再出版したのが本書です。

 本書の復刊ごろにはいろいろあったようで、たとえば同時期に猪瀬直樹が佐藤さんへの取材成果をふんだんに盛り込んだ『こころの王国 菊池寛と文藝春秋の誕生』(『文學界』平成14年/2002年4月号~平成15年/2003年12月号連載、平成16年/2004年4月・文藝春秋刊)を出したばかりでなく、本書復刊に先立つほんの数か月前、佐藤さんの甥の矢崎泰久も『口きかん わが心の菊池寛』(平成15年/2003年4月・飛鳥新社刊)なんて本を世に問うています。

 しかも、猪瀬さんは本書『人間・菊池寛』のあとがきも書いていて、佐藤さんがこの甥の作品を、

「一から十まで、ぜ~んぶ、デタラメ!」

 と全否定した、と暴露してたりするのです。猪瀬さんもまた、

「あとがきで「事実」と書き本文扉で「フィクション」と断わる矛盾。同じ扉に「死人は口きかん」ともある。菊池寛と佐藤碧子の美しい物語に対する冒涜である。」

 と怒っています。あーあ、矢崎さんももうちょっと創作っぽく仕上げればよかったのにな、とホトホト感じるのでした。

 で、本書『人間・菊池寛』のほうですけど、ワタクシまで冒涜軍団に仲間入りするのもアレなんで、なるべく菊池親分と佐藤さんとのことには触れずにいきたいと思います。あ、それと今の時期に、この出版社の本を選んだのは単なる偶然なんですよ。念のため。

続きを読む "人間・菊池寛"

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2008年1月20日 (日)

ひどい感じ――父・井上光晴

 桜、桜と浮かれていても、季節はまだ冬まっ只中だなあ。ふと手元を見ると、まさにある年の花見の日を境に、急激に病が悪化してその3年後に亡くなった方についてのこんな本があったんだけど、どれどれ、これを書いた方は、と。

080120w170 『ひどい感じ――父・井上光晴』井上荒野(平成14年/2002年8月・講談社刊)

 ああ、ごめんなさい。このブログは「直木賞のことに触れた昔の文献」を紹介してくれるんじゃなかったのか、と失望した方、ほんとごめんなさい。ミーハーめいた書籍は今回でとりあえず打ち止めにしますので。

 “○○さんの娘”のレッテルに負けずに、と前回言っておきながら、舌ぬるぬる湿っているうちにこんな本を持ってくるワタクシも、節操のない奴です。「直木賞」の文字どころか、ご尊父が第50回(昭和38年/1963年・下半期)のときに「地の群れ」で候補になった「芥川賞」のことさえまったく出てこない本書を、わざわざ引っ張り出してきて、さあて、何を語ろうと言うのでしょう。

 ご尊父の思い出を家族の視点で描いている(こっちは養父と娘の物語じゃありませんよ、念のため)、とは言ってもやはり本書には、井上荒野さんご自身の、小説観だったり小説家観だったり、そういったものが至るところに転がっています。第138回候補作の『ベーコン』を読む前にしろ、読んだ後にしろ、本書を読めばより一層、『ベーコン』も味わい深く読めそうだぞ、と思うわけです。

「私が育った家は、食べることにかんして異常に真剣な家だった。

 父がそういう家にしたのだった。

 そうして、わが家がまがりなりにも「家庭」や「家族」でありえたのは、きっと食事によるところが大きい。」

 とか言われちゃうとなあ。“私はどんなに目の前に大金を積まれても、生涯絶対に受賞作しか読まないと決めているんです”という意思の固い人はいいけど、こういう作家の書いた食にまつわる小説集が、せっかく候補作として提示されたんですもの、読んでみたって損はなかろうよ。

続きを読む "ひどい感じ――父・井上光晴"

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2008年1月16日 (水)

第138回直木賞(平成19年/2007年下半期)決定の夜に

 あくまで無機質に、かつ冷静に情報を集めて掲載していくのが、サイト「直木賞のすべて」の務めなはずなのに、ついつい半年に一度、舞い上がってしまって、だらだら書いてしまう管理人を、どうぞお許しください。

 今日のお題はもちろん、今晩決まった第138回(平成19年/2007年・下半期)直木賞について。

 井上荒野さん。たしかに知名度の点では、今回の候補者の中できっと“逆”1、2位を争っていたと思いますが、その分、井上さんの作品にまだ出会っていない潜在的読者がたくさんいる、ってことですよね。未来は無辺に広がっています。死ぬまで(死んでからも)まとわりつく“○○さんの娘”のレッテルに負けず、どうか思いっきりエンタメ作家の道を歩んでください。

 黒川博行さん。この方の名前が、受賞者一覧に加われば、直木賞の性質のうちのひとつ、“直木賞って何でもアリなんだな”というワタクシの好きな“雑食性”が、ますます濃くなるはずだったのに……。ただただ残念です。直木賞はまだまだ、黒川さんレベルの小説に追いつけていないってことでしょう。

 古処誠二さん。受賞ならずとも、3度も候補に挙がったことで、信じた道を突き進めば、いつか誰かに認められる(こともある)、と教訓を学んだような気がします。そして、そういう事例を目の当たりにして、今度もチロリと勇気をもらいました。ありがとうございます。

 うーん。佐々木譲さんには甚だ迷惑なおハナシだと思いますけど、ここで佐々木さんを選ばなかったことは、直木賞の選考の歴史に、たしかに一つの足跡が残されました。ベテラン作家の作品を、臆面もなく落とす、という足跡が。第100回(昭和63年/1988年・下半期)のときの選考と同様、今回の選考も、きっと何十年後かに、正しかったか間違っていたかが判明するでしょうから、それまで生きていたいな。

 馳星周さん。もちろん、『不夜城』の時点で、今の馳さんの活躍を見通せなかった選考委員の誰それの責任ではあるのですが、今はそれを言いますまい。今後も馳さんの世界をどんどん拡大させていってくださることを、期待しています。

          ○

 桜庭一樹さんの生み出してきた世界の、ほんの一端しかワタクシは触れていませんが、一つの場所にとどまらず、きっとさまざまな冒険を小説に託してくださる方だと、勝手にお見受けしております。受賞されたことで、きっとまわりの編集者から妙な誘導をされることもなくなり、さらに、さらに、新たな試みがしやすくなるんじゃないかな、などと早くも期待してしまうのです。わがままな読者で、ほんとすみません。

 いちおう、直木賞オタクとしては、直木賞史のなかでの視点も、ちらっと持たざるを得ないんですけど、不死鳥のごとき『別冊文春』伝説よふたたび(余聞と余分エントリー『文蔵』を参照のこと)、ってところでしょうか。

 ともかく、大森望さん、豊崎由美さん、久々の(はじめての?)的中でおめでとうございます。これで“万年はずし屋”の汚名をそそぐことができて、ほんとによかった(って、ちょっとイヤミ)。

 あ、それと新潮社、講談社の関係者のみなさま。これで桜庭一樹さんを、山周賞吉川新人賞の候補にするのはやめよう、などとは絶対に思わないでください、と心からお願いしておきます。“直木賞が新人賞の最高峰”なんちゅう戯れ言を、いったいいつ誰が言い出したのか、寡聞にして知りませんけど、あなた方がそんな妄言に影響される必要など、これっぽっちもありません。“直木賞作家? なんぼのもんじゃい”ぐらいの気概で、ぜひ、両賞を運営していただきたいと、一傍観者からのお願いです。

続きを読む "第138回直木賞(平成19年/2007年下半期)決定の夜に"

| | コメント (3) | トラックバック (1)

2008年1月13日 (日)

このミステリーがすごい!2008年版 2007年のミステリー&エンターテインメントベスト10

 作品ベスト1 VS 作家別得票数ベスト1 の熾烈な争い、ってタイムリーな話題の他にも、この名物年刊本と直木賞の間には、輝かしい歴史が累々と横たわっているわけです。決別宣言とか本格論争とかだけじゃなくて、まあ、いろいろな歴史が。

0801132008w170 『このミステリーがすごい!2008年版』(平成19年/2007年12月・宝島社刊)

→公式サイト 「このミステリーがすごい!」大賞

 2008年版(平成18年/2006年11月~平成19年/2007年10月に刊行された作品が対象)のランキング結果を、まだ押さえていない方のために、さらっとご紹介しときますと、国内編ベスト1が、佐々木譲『警官の血』。そして、作家別得票数集計での第1位が、『赤朽葉家の伝説』『私の男』を送り出した桜庭一樹。今週水曜日に開かれる第138回(平成19年/2007年・下半期)の直木賞選考会でも、この二人の作品が軸になるだろう、だなんて誰が言っているのか知らないけど、まあそうらしいです。

 のけ者にするのも可哀相だから、その軸のなかに、「このミス」第14位にランクインした黒川博行『悪果』も入れてあげてちょうだいよ。どうかお願い。――なぬ? 「このミス」での評価と、直木賞の結果は全然関係ない、ですと? それを早く言ってよ。でも、せっかく乗りかかった船なんだから、その全然関係ない2つを、無理やりクロスさせるってのはいかがでしょう。そうさ、9作めの“「このミス」トップ20入り&直木賞受賞”作品の誕生なるか、はてまた、「このミス」で取り上げられながら直木賞に袖にされた多くの同輩たちの仲間に、この3作が加わってしまうのか。過去のデータを振り返って、ああだこうだ考えてみたいのです。

続きを読む "このミステリーがすごい!2008年版 2007年のミステリー&エンターテインメントベスト10"

| | コメント (2) | トラックバック (2)

2008年1月 6日 (日)

文蔵 2008.1(Vol.28) 特集「「直木賞」の基礎知識」

 正直なところ、さまざま意味で相当取り上げづらい文献なんですけど、ここはやっぱり思い切りまして。なにせ、この対談は、ため息が出るほど貴重です。

080106w170 『文蔵 2008.1 Vol.28』(平成20年/2008年1月・PHP研究所/PHP文庫)

 本題に入る前に、軽く解説です。『文蔵』とは、PHP研究所が平成17年/2005年10月に創刊した文庫本スタイルの月刊誌。まあ、正式な分類とすれば“雑誌”じゃないんでしょう、書店の雑誌コーナーに行っても、なかなか見かけませんが、そんなときはどうぞ、PHP文庫の文庫棚に足を運んでみてください。

 内容は連載小説、連載エッセイがてんこもりの文芸誌。えー? PHP研究所が文芸なのー? とかついつい思いがちなんですが、最近の直木賞とはなかなか縁深い出版社だったりします。この前の直木賞、受賞作は幻冬舎の本でしたが、その作家さんを10年前、小説家としてデビューさせたのは、なにを隠そうPHP研究所なんですよね。

 ん、この前の直木賞って、いったい誰がとったんだっけ、だなんて、またまたトボけちゃって。ほら、『東洲しゃらくさし』の松井今朝子さんですよ。

 さあ、その『文蔵』の最新号の特集が、「日本一有名な文学賞の素朴な「なぜ?」に答えます 「直木賞」の基礎知識」と来ました。いつものワタクシなら、いやみやツッコミの一つや二つ、たらたらつぶやくところなんですが、まあ今日は、そういう“毒”はなるべく抜きで。どうかお察しください。

続きを読む "文蔵 2008.1(Vol.28) 特集「「直木賞」の基礎知識」"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2007年12月 | トップページ | 2008年2月 »