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2007年9月の5件の記事

2007年9月30日 (日)

小林久三展―社会派推理作家の軌跡―

 直木賞候補になった一人の作家がいたとします。その作家のことを直木賞史のなかに置いてみると、結構さまざまな切り口が思いつくものですが、この方もまた、きっと多方面から検証可能な人なのです。

070930w170 『小林久三展―社会派推理作家の軌跡―』(平成14年/2002年10月・古河文学館刊)

 平成14年/2002年10月19日~11月24日に茨城県古河市の古河文学館で、小林久三の特別展が開かれました。本書はその際につくられた同館の刊行物です。当時まだご本人は存命中でしたが、年譜の末尾に、

「また、犯罪研究家としても、ロス疑惑事件、オウム事件等にも精力的に取り組む。この間、心筋梗塞と二度の脳梗塞を乗り越え、現在、次作に向け英気を養っている。」

 とあり、昨年平成18年/2006年にあの世に旅立たれてしまいました。

 たとえば久三さんを直木賞史のなかで見るのであれば、こんな軸が思い浮かびます。

 いやあ、興味ぶかいテーマの数々だなあ。だけど、よおし、これでバシバシ語ってやろうじゃないか、などと無謀な宣言をする勇気は、今のワタクシにはありません。いつか準備万端整う時期がくることがあれば、ぜひとも考察してみたいよな。

 ところで小林久三って誰だっけ? だなんて、んもう、水を差さないでくださいよ。

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2007年9月23日 (日)

時代小説盛衰史

 直木賞の関連書籍を語る場ならば、この方の著作を一度も紹介しないなんて、チャンチャラおかしいぜい、との内なる声に応えまして。そして、筑摩書房よ、ありがとう、との意もチラッとこめまして。

070923w170 『時代小説盛衰史』大村彦次郎(平成17年/2005年11月・筑摩書房刊)

 講談社の元編集者にして取締役、大村彦次郎さんの業績でいえば、もちろん『文壇うたかた物語』(平成7年/1995年5月・筑摩書房刊)、『文壇栄華物語』(平成10年/1998年12月・筑摩書房刊)、『文壇挽歌物語』(平成13年/2001年5月・筑摩書房刊)は3つとも取り上げるべきだし、最新刊の『万太郎松太郎正太郎 東京生まれの文人たち』(平成19年/2007年7月・筑摩書房刊)だって見逃せないわけですけど、ここはひとつ、直木賞の成立と草創期にポイントを絞りたくて、本書を選んでみました。

 “直木三十五って誰よ、そんなに活躍した作家だったの?”とか、“なんで直木賞はバリバリの新人じゃなくて、けっこう名前の知られた人にばかり贈られるの?”とか、そんな疑問をお持ちの向きには、全523ページ、ぶ厚くて読みがいのある本書に目を通すことを、おすすめします。その疑問はきっと氷解……いや、ますます深まることになるかも。

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2007年9月16日 (日)

芥川賞の研究 芥川賞のウラオモテ

 検索サイトから「芥川賞」で探してこのページにたどりつかれた方、お疲れでしょうからゆっくりご逗留いただきたいのはやまやまなんですが、申し訳ございません。芥川賞を深くお知りになりたければ、ぜひ、よそを当たってください。ご無事で旅を続けられることをお祈りいたします。ごきげんよう。

070916w170 『芥川賞の研究 芥川賞のウラオモテ』永井龍男・佐佐木茂索・他(昭和54年/1979年8月・日本ジャーナリスト専門学院出版部刊、みき書房発売)

 え? 芥川賞じゃない、直木賞のことを知りたいんだとおっしゃる。なんとまあ、ご奇特なことで。

 本書は全305ページ、雑誌等に発表された芥川賞に関する対談、回顧談、裏話、エッセイ、研究のたぐいをぎっしりと再掲していて、たとえば直木賞と芥川賞の関係性を考えるときなどは基本文献のひとつになるんでしょうけど、まあ、そんな小難しいテーマは除けておいて、ここから直木賞にまつわることだけ掬い上げてみます。

 それでもよろしければ、さあ一緒に参りましょう。

 もう一度、お断りしておきます。「芥川賞」の情報をお求めの方々、この先をお読みになっても時間の無駄ですよ。

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2007年9月 9日 (日)

SF奇書天外

 書評ブログでもないくせに、ぴかぴかの新刊を取り上げるのは、自らの情熱のみを武器にしてただひたすらマニア道を突き進む北原尚彦さんに、心より敬意を表するため、でもあります。

070909sfw170 『SF奇書天外』北原尚彦(平成19年/2007年8月・東京創元社刊)

→著者の公式サイト 北原尚彦の書物的日常

 終戦後の1940年代後半から90年代までに日本で出版された、奇異で奇妙で奇天烈で珍奇なSFの数々が、そのあらすじや、出版の背景や、作家のことなどを含めて、次から次へと紹介されています。そもそも早川書房『SFマガジン』に連載されていたものを、増補して東京創元社から発行したかたちになっていて、“よくやったぞ東創社”と称賛されるべき本でもあります(ん?)。

 で、ワタクシお気に入りの箇所を挙げるとすると、一つには、明治生まれの作家・高垣眸が宇宙戦艦ヤマトのノヴェライズ本を出していて、

「基本的なストーリーラインはアニメとそう変わらないが、作家が明治生まれなので形容や登場人物の台詞回しがスゴイ。(引用者中略)古代進が森雪に人工呼吸するシーンなぞ「(前略)童貞の進は恋人森雪の体に跨ることは、なんとなく性交(ルビ:ラーゲ)の体位に似た気がして面映ゆく」と書いてあって、一人で腹を抱えて笑ってしまった。」(「書店にはないが新古書店にはある『少年エスパー鬼無里へとぶ』」より)

 二つには、ロバート・ムーア・ウイリアムス著、清水谷漫歩訳の『21世紀の顔』について、

「これがすさまじい。どうすさまじいのかというと、翻訳の文章が滅茶苦茶で、全く意味が取れないのである。(引用者中略)一文一文はなんとか意味が判っても、文章が連なると前後でまるで意味不明になるのだ。横田順彌氏は全部読んだけど判らないよとおっしゃるし、牧眞司氏も原書をアメリカの古書店に注文して取り寄せて原文で読んでも日本語で読むより早いよとのことだった。」(「全く意味不明の滅茶苦茶翻訳SF『21世紀の顔』」より)

 三つには、2025年にタレント出身議員が首相となったことで、タレント政権が成立するさまを書いた瀬田龍造『ポリティア・タレンティ』という書があり、実在の有名人をモデルにした奇々怪々な名前をもつ人物がいろいろと登場してきて、

「SF的背景は、JHK(NHKのこと)が民営化されてるとか、日本に大量に外国人が流入したとか、円安で一ドル二百二十円になっているとかは説明されるが、肝心のストーリーはというと、延々と内閣メンバーを決めているばかりなのだ。これを奇書と言わずして、なんと言おう。」(「有名人の人名もじりの嵐! 政治SF『ポリティア・タレンティ』」より)

 とか、他にもいくつもあるのですが、やっぱりワタクシの場合、直木賞の受賞作家や候補作家についての記述を、最もワクワクして読んだわけです。

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2007年9月 2日 (日)

快楽と救済

 よくぞこれほどパワフルで読み応えのある作品をぬけぬけと落としたものよ、と後世にまで語り継がれるはずの『血と骨』落選劇が、アノ第119回だったというのも、何かのご縁に違いありますまい。

070902w170 『快楽と救済』梁石日・高村薫(平成10年/1998年12月・日本放送出版協会刊)

 何が“アノ”なのかと言えば、第119回(平成10年/1998年・上半期)は、直木賞に車谷長吉が、芥川賞に花村萬月が選ばれたことから、二人のそれまでの文学活動などに注目して、こりゃ純文学と大衆文学の境目があいまいになった表れか、なんぞと新聞やらで書かれたアノ回なのです。

 でもまあ、だいたい、直木賞と芥川賞の動きだけをもって、大衆文学や純文学を語ろうだなんて、強烈に乱暴なハナシですがな。“境界あいまい化”説も、話半分ぐらいに聞いといたほうが身のためです。

 さて、本書はその回に直木賞候補になっていた梁石日さんと、それより5年前の第109回(平成5年/1993年・上半期)に受賞していた高村薫さんとの対談本なのですが、お二人はこんなことおっしゃっています。

高村 ついこの間の直木賞と芥川賞では、周りの皆さんは、「それらの境目がなくなってきた」と、盛んにおっしゃっています。本来、芥川賞に行くべき人が直木賞へ行かれて、もともとエンタテインメント系の人が芥川賞へ行かれた。そのことによって、差がなくなってきていると言われているんですけども、梁さんはどう思われますか。私は違うと思うんですが。

 あれは一種の術策、トリックですよ、はっきり言って。そんなことで、簡単に、その境目がなくなるわけじゃないですよ。」

 トリック――。おお、しっくりくるぞ、この表現。

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